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私事で恐縮です。

エレ片 IN 両国国技館

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2016年12月28日、ついにこの日がやってきた。TBSラジオエレ片のコント太郎』10周年を記念して開催されたこの大大大イベント、エレ片IN両国国技館!2月末にエレ片コントライブ『コントの人10』の終演後に告知されてからというもの、両国国技館という未曾有のキャパシティ、徐々に明らかになるイベント内容とチケットの売れ行きに期待と不安を抱えながらこの日を待ちわびていました。いざ蓋を開けてみればアリーナ席と升席はまあほぼ満員と言っていいのではないかという客入りで、普段のコントライブの会場では味わえない雰囲気に胸が踊るではありませんか! 

開演までの1時間は田中知之(FPM)によるDJと共に歴代のコントの人オープニング映像が流れていました。そして18時、『エレ片のコント太郎』のオープニングであるFPM「paparuwa」に乗せてエレ片の三人が登場。客席を見渡しての「埋まってる!」という景気の良い一声で明るいスタートを切りました。最初の企画はゲストに番組に縁の深い大槻ケンヂとゲッターズ飯田を招いて10年の歴史を振り返るというもの。DVD未収録のVTR「崖の上のジン」「パロディCM(片桐さんによる広瀬すず、今立さんによるダチクン・ビーバー)」、大槻さんリクエストの「今立泥酔ツッコミ(桃太郎公園)」、伝説のやついおもらし事件の写真などで歴史を振り返ります。そしてラジオでも予告されていた衝撃の「片桐キャンプ事件」と、TBSから直々にお叱りを受けタブーと化していた「アネロス放送」のVTRでは異様な空気が国技館に充満するというなかなか出来ない体験をしました。コントライブの幕間の映像のためにキャンプへ行った際の、片桐さんの不機嫌とガチギレ。買い出しに行かされ、帰ってくると寝ていたエレキや作家陣に腹を立て、作家ゴウヒデキの腹を蹴りつけるという衝撃の映像では笑いとドン引きが巻き起こる。ずっと映像を流すことを渋っていた片桐さん、今から流れるという段になったときに衣装のタキシードに付いていたバレッタをいじけたようにイジっていて、国技館でも変わらぬカタギリ感を発揮しまくっていました。「アネロス放送」でのこれがラジオで放送されたことが今となっては信じられない片桐さんの音声には、近頃地方のFMにハマってエレ片を聞かなくなっていたという大槻さんも「また聞くよ!」と言うほど驚かれてましたね。それから大槻さん、「崖の上のジン」で映った片桐さん所蔵のエロマンガに対して「片桐くんはエロマンガの絵柄にあまりこだわらないんだね」とコメントしたり、「アネロス放送」では片桐さんの着ていたキング・クリムゾンのTシャツに「これ着たままやったの?」と独特の反応をされていてすごく良かった。こうしてエレ片の歴史を振り返ってみると、やついさんのおもらし事件や宇宙液、今立さんの泥酔や女性遍歴とそれぞれに強烈かつシモ寄り多すぎなエピソードがありつつ、やはり片桐さんの人間味溢れすぎなエピソードの数々とそれをゲラゲラ笑いながら楽しみさらなる臭みを引き出すエレキコミックの関係性が「エレ片」なんだなあと改めて思う。この振り返り企画はこれだけでも何回かイベントが出来る情報量なので、オールナイトなんかでやったらとても楽しそうだなあと思いました。

休憩中にはグッズ宣伝のための「恋ダンス」映像が!これまでのコントでの女装も登場し、動きがバタバタしていてとっても可愛かった。座布団を二枚持たされた片桐さん、めちゃくちゃ踊りにくそう。そして、エレキコミック発表会『金星!!』で流された「今立プロポーズ大作戦」のVTRに、先日のスペシャルウィーク「シン・結コント太郎」で発覚した真実(飲み会で知り合ったとされていた→本当はFacebookのファンからのメッセに返信した)を加えたバージョンの映像が流れ休憩が終わると、いよいよ今立さん・まいさんの結婚式へ。

お二人の選曲という布施明君は薔薇より美しい」に乗せてアリーナ席後方の扉から新郎新婦の入場。私はちょうど通路側の席だったのでお二人の姿を間近で見ることができたのですが、シルバーのタキシードの今立さんと真っ白なウェディングドレスのまいさんを見ていたらなんだかグッときてしまった。ラジオのリスナーが集まって今立さんの人生の門出を見守るの、めちゃくちゃ良いな。ドレスの裾を持って歩いた新婦友人の子ども達が「まいちゃん」「ご結婚」「おめでとう」と習字を掲げる微笑ましい一幕もあり、会場は一気に結婚式ムードに。壇上には司会のやついさんとおかっぱの片桐さんことアネロス牧師が登場し、コント仕立ての結婚式が執り行われました。指輪交換や誓いのキスだけでなく、なぜか牧師を相手に新婦の相撲(行司は作家の川尻さん)、岩下の新生姜ペンライトタワー挿入というエレ片らしさ。続いての披露宴は、トゥインクルコーポレーションの上田マネージャーによる挨拶でスタートしました。緊張からか信じられないほど噛みまくり、そもそも文章も破綻していて爆笑をかっさらっていく上田マネ。「ちゃんちゃんちゃんこ鍋、覚えていますか?今夜は、まいちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんこ.....」と最後のキメまでアクロバティックに噛みまくる。最高でした。続いてはラジオやトークイベントで共演しているシルクラボ所属のエロメン一徹・月野帯人による挨拶。持ち前の品の良さで爽やかにポケットTENGAを新婦に手渡す一徹さんと、おもむろにズボンを下ろして「3Pしてください」と頭を下げる月野さんのはちゃめちゃさが楽しい。氏神一番に生声で「OEDO」を歌わせたかと思えば、峯田和伸大槻ケンヂが弾き語りで歌う銀杏BOYZ「BABY BABY」という素晴らしすぎる爆弾を落とすのもエレ片だからできること。そして何といっても最高だったのは片桐さんのスピーチ!「BABY BABY」を聞きながら既に涙ぐみ、号泣しながら読まれたスピーチには片桐さんと今立さん、そしてエレ片の青春が詰まっていた。学生時代、毎週のように片桐さんのアパートで遊んでいたことや、今立のツッコミを受けていると自分が面白い人間になったんじゃないと思ってしまうこと、そして今立さんのツッコミを受け続けている片桐さんからの「相手を上から見下すのではなく、面白いとこを見つけて楽しむことができる優しさ」という最大の賛辞。飲み過ぎる今立さんを心配し、「格好良くいてほしい」と言う片桐さん。今立さん特有の気付いたら一人でいなくなっている行動へのアドバイス。片桐さんの愛とユーモアに溢れたスピーチは間違いなくこのイベントのハイライトでしょう!今立さんももらい泣きする中で相方のやついさんは司会に徹しているのもまた彼ららしくて、エレ片三人の関係性に胸が熱くなりました。ご親族も来ている中、こんなめちゃくちゃな結婚式で大丈夫なのだろうか...という不安を一瞬にして吹き飛ばすまいさんのスピーチもとても良かったです。手紙が出てくるかと思いきや原稿はなんとノート、言いたいことは伝わってくるけど何しろおかしい言葉のチョイス。今立さんが結婚を決意するほど惚れ込むのも納得のキャラクターがにじみ出ていて、祝福の気持ちを込めて力いっぱいの拍手を送りました。末永くお幸せに!

多幸感溢れる結婚式の次はコントコーナー。転換中にはマギー、クリープハイプ尾崎世界観森脇健児鴻上尚史甲本ヒロト笑福亭鶴瓶と番組やメンバーに縁のある人々からのメッセージが流れました。なぜか銭湯から出てきた森脇さん最高っす。甲本ヒロトはコメントを終えたかと思うともう一度カメラを戻して「さっき言い忘れたんですけど、「RIKACOのメス」と「デンジャラ~ス」が好きです。」とコメントしていて、めっちゃ聞いてる!!と嬉しくなりました。スーパースターなのに目線が完全にリスナーなのがもうめっちゃ格好良い。またゲストに来て欲しい。

レキシの池ちゃんを迎えたコントでは、「シトラスラベンダー」にジョイントした歌ネタを披露。「マツジュン」「ちんこに見えちゃう」「サタデーナイト」やっぱり名曲です。「はにわに見えちゃう」と「ガンダムに見えちゃう」もグダグダで最高。レキシの「狩りから稲作へと」では会場が湧きましたね。あと池ちゃんが三つ編みを付けてセーラー服を着ると超ニッチェでした。

Negicco、峯田さん、池ちゃんと全員でのコントは、片桐さんが執拗にマイケル・ジャクソンに間違われる「BAD」を披露。エレキとともに中学生に扮し片桐さんにちょっかいをかける峯田さん、新幹線の座席のセットに思い切りダイブして大回転&激突&背もたれ破壊をキメていて超最高でした。エレ片のコントでお馴染みの可愛らしいダミーちんこを出しながらマジでコケる姿にも大いに笑った。あと学ランが似合いすぎててセクシー。セーラー服のNegiccoちゃんも片桐さんに勢いの良い蹴りをキメ、ステージ裏からやついさんの笑い声が響く一幕も。「99.9?」「知らね」「コバケンなら知ってる」と声を合わせる姿がなんともキュート。池ちゃんは赤い革ジャンでもうひとりのマイケルを名演。エレキ、峯田さん、NegiccoがBADのイントロを歌いながら片桐さんを挑発するシーン、可愛すぎました。わちゃわちゃ感がたまらないコントが見れるのもこういうイベントならではでとても楽しかった。

そしていよいよ、新メンバーの加入が告知されていた危険日チャレンジガールズ!のライブコーナーへ。ライブ前には一番最初のレコーディングにやついさんが一時間遅刻したときの映像や、「純情エクスタシィ」のPV・アー写撮影の模様が。遅刻しているのにドラクエ9を見せびらかし、片桐さんとゲームソフト奪取ゲームしている映像、延々と観ていたい。アー写撮影での上田マネとの即興デリヘルコントも良かったですね。

ライブではNegiccoと共に「純情エクスタシィ」と新曲「ONE NIGHT SENSATION!」を披露。立ち位置からモタつき、徐々に口パクもままならなくなっているキケチャレのおじさんたち、もはや愛おしい。そしてキケチャレとコラボを続けてくれるNegiccoちゃんが考案した「ONE NIGHT SENSATION!」の振り付けも優しさに溢れていました。Negiccoとのライブが終わり、遂に新メンバーの発表へ。カウントダウンとともに開いた幕の向こうにいたのは、まさかまさかの…手島優!女装じゃないのかー!どことなく女装っぽいけど!これまでにエレキのネタに名前が登場したりラジオで爆乳ヤンキーが話題になったりしていたので言われてみればの人選。爆乳ヤンキーでのスイカ早食いや『ゴッドタン』での勇姿を見る限り、キケチャレに上手くハマってくれるのではないでしょうか。キケチャレネームは何になるのだろう。手島優を新メンバーに迎えた危険日チャレンガールズ!寿として2月にメジャーデビューすることも発表され、今後の展望が感じられて楽しみです。キケチャレはNegiccoとの曲やSmall Boysとの「クラクラッ・シンデレラ」などやたらといい曲が揃っているので、売れまくって欲しい。「Funky Fun!!!」でゲストも再び登壇し宴もたけなわ。氏神一番の地獄のようなスベりも含めて大団円を迎えたエレ片IN両国国技館。最後はやはり番組のコーナーから生まれ、コントの人のエンディングを飾ってきた峯田和伸による「キラキラいいにおい」の弾き語りでお開きとなりました。

両国国技館という1万人規模(ライブのセットでは約6千人)の会場で相も変わらずくだらないトークとコントを繰り広げるエレ片はとにかく最高でありました。ラジオともコントライブとも違う賑やかさで後にも先にもないお祭り、こんなことできるのエレ片しかいないよ、という気持ちです。一生続いてくれ〜

VIDEOTAPEMUSIC one man show "Her Favorite Moments"

 

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12月10日、渋谷WWWで開催されたVIDEOTAPEMUSIC初となるワンマンライブ"Her Favorite Moments"。会場に入るとステージには大きなスクリーンに加えて大小6台のブラウン管テレビにHer Favorite Momentsのネオンサインが光り、ミラーボールをカラフルな照明が照らしている。異国のクラブパーティにでも迷い込んだかのような空間だ。19時になるとスクリーンには映画が始まる前の予告編のように7inch『Kung-fu Mambo』、坂本慎太郎との12inch『バンコクの夜』、配信シングル『Sultry Night Slow』、アルバム『世界各国の夜』のコマーシャルが次々と流れ、本編の開始を告げるように再びHer Favorite Momentsのネオンが現れるとVIDEOTAPEMUSICとバンドメンバーが登場した。フライヤーに描かれた交差点に人や車が往来する映像とともに演奏がはじまり、レトロスペクティブなネオン瞬く交差点はいつしか現在の渋谷スクランブル交差点へと変わっていく。カメラはセンター街の雑踏を抜け、見覚えのある階段を登っていく。辿り着いたのはまさしく今日の会場である渋谷WWW。なんと完璧なオープニングだろう!これから映画が始まるというときのあの得も言われぬ高揚感。映像と演奏が混ざり合い、いまここにしか無い空間が作り上げられていく様には興奮を禁じ得ない。あの素晴らしきオープニングを忘れずにいるために言葉で書いてみるものの、素晴らしさの微塵も表現できないのがもどかしい。しかし、拙くとも書かずにはいられぬほどに素晴らしいワンマンライブだったのだ。

 

オープニングの高揚感を損なうことなく、ライブは様々な表情を見せながら展開していく。ライブではお馴染みのメンバーである松下源(パーカッション)、高橋一(トランペット)、増田薫(バリトンサックス)、潮田雄一(ギター)にDorian(キーボード)を加えた編成はメロディアスでより一層ゴージャスな雰囲気だ。新曲「密林の悪魔」は低音と歪んだギターが格好良いキラーチューン。ハトヤ、密林、ハワイ、団地などをテーマにした楽曲と映像に身を委ねていると、今が12月であることも、ここが渋谷であることも忘れてしまいそうになる。


VIDEOTAPEMUSIC / Sultry Night Slow【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ソロで演奏された「Pianican night club」と「Her favorite song」では時空さえ越えて心地の良い悪夢のような音と映像の世界が繰り広げられる。映像も終わり真っ暗になった会場にピアニカの音だけが響き渡った「Pianican night club」の最後も忘れがたい。ときに、CD-Rなどでリリースされた過去の曲を再録したアルバムを出してはくれないかしら。


VIDEOTAPEMUSIC「PIANICAN NIGHT CLUB」

泊の山田参助を迎えての「青いドレスで」(泊)、「Hong Kong Night View」も素晴らしかった。ブラウンの中折れ帽、チェックのシャツに着物の着流しという粋なスタイルの参助さんがなんとも素敵だ。サンプリングを用いない生演奏をバックに歌われた「青いドレスで」は楽器のように声を操る参助さんのボーカルが豊かに響きあう。

「Kung-Fu Mambo」や新曲「熱い砂のルンバ」「Slumber Party Girl’s Diary」と畳み掛けるような終盤に演奏された今回のライブタイトルを冠した新曲「Her Favorite Moments」は新たなステージを感じさせる一曲だった。「これは2016年の福生を捉えた映像である。」というオリジナルのナレーションが付けられた福生の映像。街並みに続いて映し出されるのは基地のお祭りで踊る外国の少女たち。


VIDEOTAPEMUSIC One Man Show "Her Favorite Moments" Trailer

この光景については2016年のベストにRihanna「Work ft.Deake」を挙げたこの記事で語られている。

fnmnl.tv

 今年の世界的なヒットであることは間違いないと思うのだけど、それ以上に個人的な体験として、今年9月に福生横田基地の祭の片隅でこの曲を音の割れた安物のコンポで流しながら合唱し踊る十代半ばくらいのアメリカ人の少女達の楽しそうな姿が記憶に焼き付いている。海のむこうのグローバルなヒット曲が、東京郊外のローカルな風景の中で美しく鳴っていた瞬間。

 2016年の映像に乗せてナレーションは「当時の曲を聞いてみましょう。VIDEOTAPEMUSICでHer Favorite Moments」と曲を紹介する。つまり、未来に置かれた視点から現在を見ているということである。VIDEOTAPEMUSICがこれまでサンプリングしてきた過去の映像群に現在のものがオーバーラップし、更にその先から俯瞰した視点の登場。これまでも単なるノスタルジーやエキゾな心地よさのみに陥いるのではなく、かつてどこかで鳴っていた音楽が、再び再生され現在と繋がるというロマンやその揺るぎない事実に自覚的であるところが魅力のひとつであったが、ここへきてより一層、過去・現在・未来へのアプローチが可視化されてきたように思う。VIDEOTAPEMUSICの音楽と映像に宿るノスタルジーには、その殆どが初めて見聞きするもののはずがどこか知っているような気にさせられる普遍性があり、これらは「誰かにとっての何処か/何時か」なのだという実感が伴う。映画からのサンプリングとリフレインが巧みであることは言うまでもなく、その一瞬一瞬に特別で親密な空気が流れているのだ。これは彼の対象への眼差しでもあるのだろう。

更に面白いのは極私的な事柄がライブという体験によって共有されること。アンコールで演奏された「煙突」に関するエピソードが語られたのだが、この曲のメロディは当時PHSに打ち込んだものを布団に押し付けながら流して録音し、低音を拾ったのだという。また、今年の7月に行われた立川のギャラリーセプチマでのライブ『棕櫚の庭』では、映像に登場する煙突は実家から撮影したもので、多摩モノレールから見えると話していた。勿論これらのエピソードを知らなくても「煙突」という曲は素敵なのだけど、この曲を通して当時のVIDEOさんに接続したような気分になるのも楽しみ方のひとつだと思うのだ。

先述の「Her Favorite Moments」に映る彼女たちも、彼女たちの人生の中ではほんの一瞬の光景に過ぎないのだけど、こうしてVIDEOTAPEMUSICが捉えたことで、私はあの子たちに接続することができた。また、ライブ中には気付かなかったのだけども、構図から色使いまで全てがパーフェクトなフライヤーを眺めていると、交差点の建物に「三千里」の文字があることに気付く。ということは、この交差点は渋谷ということだ。私たちの知らない過去の渋谷と、過去の人たちの知らない現在の渋谷が接続する。時代、季節、場所、時空、過去・現在・未来の境界をシャッフルし混線させることで出会うどこかのだれかのいつかの瞬間。そして演奏と映像によってその瞬間を立ち上げるライブという表現空間もまた、その瞬間にしか存在しない刹那的なものだ。半永久的な映像記録と刹那的なライブという相反する媒体。永遠の一瞬に身を委ね、今夜は踊ろうではないか。


VIDEOTAPEMUSIC/世界各国の夜 (Digest)

 

素晴らしいワンマンライブの興奮を引きずってごちゃごちゃと書き散らしてはみたが、だんだん訳が分からなくなってしまった。初めてライブを見たときから感じている、都築響一『ROADSIDE JAPAN』とそのフィーリングを受け継ぐ雑誌『ワンダーJAPAN』や『八画文化会館』周辺のカルチャーとの親和性についてもいつかまとめてみたい。支離滅裂の文章を通して結局何が言いたいかというと、VIDEOTAPEMUSICは最高!大好き!ということです。新曲群もキラーチューン揃いで、既存の曲もフレーズや映像がアップデートされていて今後の展開が楽しみで仕方ない。本当に素晴らしいワンマンライブでした。

ちかごろは、

www.tbsradio.jp

9月末からTBSラジオで始まった『アルコ&ピースD.C.GARAGE』を聞いてみたら面白くてすっかりアルコ&ピースに夢中だ。平子さんのキャラクターが強い印象だったのですが、ラノベのコーナーの導入を聞いていると酒井さんも相当イカれてることが分かった。過去のオールナイトニッポンもこつこつと聞いているのですが、ちょっと今までに味わったことのない面白さで、こんなに面白いものを知らずにいたのか…とショックを受けている。「いかちい」「バカかっけえ」といった最高の酒井ボキャブラリーを使いたくてたまらない。ラジオ内で驚異のアマチュア新人として名前が出た漫才コンビ「まんじゅう大帝国」、そのネーミングセンスに心を掴まれGyaoM-1予選の漫才を見てみたら期待を軽々と飛び越える面白さ。他のネタも見たいな〜

 

11月11日

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横浜美術館にて『BODY/PLAY/POLITICS』を鑑賞。石川竜一の写真群に見入る。壁に被写体に関する文章がチョークで書かれた《小さいおじさん》や《グッピー》の見応えはもちろん、街の人々をスナップした写真の生々しさが尋常でない。渋谷駅前のギャルの太もものガーゼや、下北沢ヴィレヴァン前の女の子の白いレースのタイツから透けて見える絆創膏。そういったものが意図して写されているかは定かではないが、はっきりとピントを合わせて撮られた人物から立ち上る生々しい「生」と「身体」が焼きついて離れない。

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みなとみらい。

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STスポットでロロ『すれちがう、渡り廊下の距離って』を観劇。今回もとても良かった。 10分間のセッティングのときから不思議な存在感を放っていた大村わたるさんが演じた点滅、最高だったなー点滅、太郎、楽がラップでだんだん盛り上がるところ永遠に見ていたかったです。

vanity73.hatenablog.com

 

11月12日

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本多劇場阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』を観劇。それぞれが正しいと思って選択したことが全て間違っている。これ以上無いほどの最悪へと向かっていくさまにゾクゾクする。あらすじはそれはもう悲惨なんだけども、コメディとしての精度がとても高い。ブラックコメディともまた違う、やるせなさが漂う戯曲とそれを体現する役者陣の素晴らしさよ。

 


映画『友だちのパパが好き』予告編

 下北沢トリウッドで山内ケンジ監督『友だちのパパが好き』を鑑賞。喋る人物全員を画面内に収めてワンカットで会話を撮っているのが印象的だった。言葉尻をつかまえて相手を追求する会話のいやらしさや息苦しさが画面にも充満している。しみじみとおかしくて面白かったなー自分でお腹を刺すシーンで笑ってしまうとは。それから、年相応にくたびれているけど長い付き合いの愛人がいて、娘と同い年の女の子に言い寄られて結構簡単に手を出しちゃう軽薄な男を演じる吹越満の説得力が凄い。

上映後に舞台挨拶があったのですが、劇中では少しツンとして疲れがにじむ妻を演じていた石橋けいさんが素ではとても綺麗で華のある方で、月並みに「女優ってすごいな」と思いました。あと吹越さんバカかっけえ。

 

11月16日

www.nhk.or.jp

2019年の大河ドラマ宮藤官九郎が書く、という大ニュースが飛び込んできた。ラジオや週刊文春の連載でリオオリンピックへ行った話をしていたので何かしらの形で関わるのだろうと思ってはいたけれど、まさかオリンピックをテーマにした大河ドラマとは!クドカン脚本の約40分のドラマを一年間、毎週観ることができると考えただけでクラクラする。ドラマ放送時は視聴率のことなどで意気消沈する様子をラジオで聞いているので「だ…大丈夫だろうか」とか、大河を書くということは舞台はしばらくお休みかしらという気持ちにもなるのだけど、演出に井上剛というのは非常に心強い。脚本・宮藤官九郎、演出・井上剛、制作統括・訓覇圭とは言うまでもなく『あまちゃん』の布陣な訳で、そりゃあもう色んな期待が膨らんでしまうな。次から次へとこの人が出たら良いな〜という役者さんが浮かぶのだけど、特に『ごめんね青春!』で宮藤さん脚本、『トットてれび』で井上さん演出を経験した満島ひかりに出て欲しい。あとのんちゃん。のんちゃん。スポーツ選手なら森山未來も良いなあ。宮藤作品お馴染みの人だけじゃなくて、新しい人にも沢山出て欲しい。ああ~2年先にも楽しみが待っているなんて、幸せだ。2020年の東京オリンピックは本当にできるのか?という感じだけども。

 


『溺れるナイフ』本予告

 山戸結希監督『溺れるナイフ』を鑑賞。前触れなく走り出す夏芽(小松菜奈)とコウ(菅田将暉)の痛々しいまでの衝突。二人が交わす視線は火花が散っているかのごとく激しい。互いのもつ「特別なもの」に憧れと嫉妬をかき乱される様が、赤と青の鮮烈なコントラスト、追いかける・すれ違うといった運動性を通してこれでもかと画面に叩きつけられているかのようだ。「画」そのものに気を当てられるエネルギーがあって、凄いもん観ちゃったなーという感じだ。あと、『ごめんね青春!』の海老沢役を好演していた重岡大毅演じる大友が最高で「青春ってのはお前のことだよ!」と背中を叩きたい気分になった。カラオケのシーン良かったな。あとTシャツが絶妙。これに関して、スタイリスト伊賀大介のインタビューも面白かった。

realsound.jp

 

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シアタートラムにてKERA・MAP『キネマと恋人』を観劇。KERA作品でお馴染みの小野寺修二による振付と上田大樹による映像で構成されたオープニングや場面転換の美しさに冒頭からため息がもれる。あのオープニングだけでも見に来て良かったと思うくらいの満足度。ウディ・アレンカイロの紫のバラ』をベースに展開される、映画を愛する女性・ハルコ(緒川たまき)と映画から出てきた男・虎蔵とその俳優・高木高介(妻夫木聡)のロマンチック・コメディー。ちょっと抜けてるキャラクターの緒川たまきがもう、可愛くて可愛くて。架空の方言を話すのですが、それもまた良い。「ごめんちゃい」ってのが最高にキュート!演劇にしては場面転換が多く、スクリーンの中や、虎蔵と高木が対面する場面でのケレン味あるアイデアなど見応え充分でありました。最後の高木の表情も、映画を観て笑うハルコの表情も、知っているのは私たち観客だけなのだと思うと切なさもひとしお。

 

11月17日

ユーロスペースにて片渕須直監督『この世界の片隅に』を鑑賞。もう、素晴らしかったです。私としては「のん」こと能年玲奈ちゃんの復帰作という意識が強くて、もっと純粋な心持ちで観るべき映画かも知れないなあと思いながら見始めたのですが、映画が始まると色んな思いが洗い流されてただただ『この世界の片隅に』導かれる。優しく力強い。

vanity73.hatenablog.com

 

11月18日

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世田谷パブリックシアターにて『遠野物語 奇ッ怪・其ノ参』を観劇。遠野物語を軽く予習しておいた方が良いかと思い図書館で色々と見ていたのだけども、水木しげる遠野物語を描いた漫画が読みやすくて面白かった。 水木しげるの描く座敷わらしがまた可愛いんだな〜

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)

 

遠野物語岩手県遠野に伝わる神様や理屈では説明のつかない出来事を集めたもので、これといったオチがなくつかみどころがない話が多いということを前提に観ることが出来たので予習しておいて正解だったな。この芝居では、方言の使用や迷信といった科学的根拠のないものの記述・出版が禁止された世界を舞台に、語りと芝居の場面をシームレスに行き来する。遠野物語の伝承と、それが人為的なもの、色々な事情からそうすることしかできなかったものでもあるという側面を描き、境界を曖昧にしていく。「物語る」ということの必要性を浮き彫りにしているのは伝わってくるのだけど、最後のイノウエの失踪した妻の話やときおり挟まれる感情的な演技がどうも取って付けたもののように感じられてしまった。そこを除けば、シームレスな場面転換や全体の構成はとても面白かった。そして「語り」がテーマなだけあって声(と発声)が抜群に良い役者さんが揃っていて見応え&聞き応えあり。

映画『この世界の片隅に』

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こうの史代の同名漫画を片渕須直が映画化した『この世界の片隅に』を観ました。私がこの作品を知ったきっかけは、「のん」と名前を改めた能年玲奈が主演声優をつとめるというニュースです。映画が始まってすぐは、「ああ、のんちゃんの声だ」と感じ入っていたのですが、小さなすずさんが海苔を背負う仕草や、かじかむ手に息を吐き鉛筆を削る仕草など、ひとつひとつの動作が丁寧に描かれている姿を観ているうちに、聞こえてくる声はすずさんの声以外の何物でもなくなっていった。堅実に描かれた広島の街並みに、すずさんという人物が確かに存在しているのだ。井戸で水を汲む、野草を摘んでご飯を作る、着物をもんぺに作りかえる、畑から軍艦を眺める、道に迷う、絵を描く、周作さんと口づけをする、喧嘩をする、防空壕へ避難する...すべてのことが同一線上に並んでいる。ぼーっとしているすずさんがバケツを人にぶつけまくったり、お砂糖を蟻から守ろうとして水に沈めちゃったり、ハゲがばれないように周作さんの手を振り払ったりする日常の一幕がどれもチャーミングで愛おしい。「戦時下の人々」を描いているというよりも、ひとりひとりの暮らしに戦争が訪れ、色々なものが失われながらも暮らしを守り続ける様子を、綿密な時代考証のうえで堅実に描ききっている映画だと思いました。「戦時下の人々」にはひとりひとりに名前があり、暮らしがあるということを、はっきりとした感覚で得ることができる。黒い布を外したランプから漏れる家々の灯りの風景も忘れがたいシーンのひとつだ。

そして、すずさんが右手を動かすと線が引かれ、筆を置けば色がつくという一連のアニメーションもそれだけで素晴らしく、単純に映像を観るよろこびが詰まった映画でもある。色の付いた煙と絵の具を打ち付ける筆が混ざり合う空襲のシーンや、すずさんが右手と晴美さんを失った瞬間のアニメーションは胸に迫るものがあった。辛くて仕方がないのだけど、暮らしは続いて、そこには笑いも生まれるという感慨にそっと寄り添うのがコトリンゴの歌う「悲しくてやりきれない」だ。オープニングで流れるのだけど、観終わったあとに聞き返すと、これほど映画のムードに寄り添う音楽もないな、というくらい素晴らしい。

一本の映画を観たという以上にすずさんの暮らしを体験したという感覚に近く、数々のシーンを思い返すとなんだかずっと前から知っていたような気分にさえなる。呉の街を、あの人たちのことを私は知っている。なんて幸福な体験だろうと思う。私は原作を読まずにストーリーを知らない状態で観たので、後半の展開に涙が止まらなくなってしまって、見逃している細かい箇所が山ほどありそうなのでまた観に行きたい。好きなシーンやすずさんを演じたのんちゃんの声のここが最高、みたいなのも沢山あるんですけど、ひとつ挙げるならば、おばあちゃんの家で天井から現れた子のためにすいかを貰ってくるときの小声での「おばあちゃーん」でしょうか。「あちゃー」といったおっとりした場面から、強い意思を感じさせる場面まで、どこを取っても素晴らしくてのんちゃんはやっぱり凄い女優さんだと胸がいっぱいになりました。のんちゃんが主演じゃなかったら、私はこの映画を観ないままだったかも知れない。そう思うとぞっとする。

 

鑑賞後すぐに原作の漫画を購入して読みました。前述のすずさんが海苔を背負うシーンなど、漫画でも丁寧に描かれた動作がアニメーションになっていたのだなあという感動と同時に、とても自由な画面構成や筆触で描かれていることに驚く。なんというか、漫画全体がチャーミングで可愛らしい。映画関連のインタビューや記事でこうのさんが色々な方法・技法(紅や左手で描いた風景など)でこの漫画を描かれたことを知りました。楠公飯のシーンとかとても好きだ。映画ではリンさんとのエピソードはニュアンスは少し残しつつも大幅にカットされていて原作を読んでこれもまた驚いたのですが、確かに映画で描かれていたらキャパオーバーで受け止めきれなかったかも知れないな。沢山の注釈や参考文献が記載されていて重厚な読み応えがあるのだけれども、パラパラとめくって好きなところから読み返せるような親しみも持ち合わせていて、この先ずっと読んでいく漫画なんだろうなと思う。

ロロ いつ高シリーズVol.3『すれちがう、渡り廊下の距離って』

 

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11月11日に横浜STスポットにてロロのいつ高シリーズVol.3『すれちがう、渡り廊下の距離って』を鑑賞。限定公開されていたVol.1『いつだって窓際であたしたち』、Vol.2『校舎、ナイトクルージング』を観て復習し、気持ちを高めて万全の体制で観たのですが、それはもう素晴らしくてまたしても胸がいっぱいになりました。

lolowebsite.sub.jp

 

今回は、Vol.1で校庭を見つめていた白子(大場みなみ)、彼女と別れたショックで校庭を時計回りに走っていた内蔵逆位の太郎(篠崎大悟)、Vol.2で夜の校舎で肝試しをした楽(大石将弘)、そして新キャラクターの点滅(大村わたる)が登場。点滅と喧嘩中の彼女・田野辺の伝言のために渡り廊下を行き来する太郎と、それを見つめる白子、映画を撮るために将門と待ち合わせをする楽がすれちがいながら出会う物語だ。「渡り廊下の距離」がそのまま点滅と田野辺の気持ちの距離であると同時に、その渡り廊下は楽と太郎が出会い、白子が太郎と対面する場でもある。校舎をつなぎ、ばらばらだった彼らをつなぐ渡り廊下。そこにいる彼らだけではなくて、置き忘れた楽の携帯電話に出た太郎は、Vol.1で追いかけてきた将門と再び出会う。

三作目になると前作からのつながりがどんどん立体的になってくるので、それを頭の中で繋げていくのがとても楽しい。楽が将門と撮っているのは「学校中の音を集めて音楽を作る男」の映画で、タイトルは「校舎、ナイトクルージング」!これは昼間に録音した教室の音で夜の学校を満たす(逆)おとめとの出会いがきっかけになっているのだろう。それに出演したがる白子(彼女が歩き踊りながら歌ったザ・ハイロウズの「青春」の素晴らしさよ)、楽に出演を打診される太郎、と少しずつ彼らの関係が広がっていくことに否が応でも感激してしまうではないですか。(逆)おとめ、渡り廊下には盗聴器をしかけているのかなあ。

白子が太郎に渡した写真は、Vol.1で太郎の走った分だけ白子がストリートビューで見てきた場所だろう。そして太郎が言った「(元カノの海荷との旅行の)帰り道の方が好きだった」という台詞に、朝と茉莉、瑠璃色の間で交わされた「内蔵が逆だから、登校中に下校する」太郎と、別れたショックで富士山を下山する海荷を思い出す。ホームページでは海荷がVol.4に登場予定となっていて、どんな子なのかとても楽しみだ。

それから、舞台上にはいなくても登場人物が確かに存在するのだという感触もとても大きかった。楽の見上げる教室には将門が、点滅と太郎が見上げた音楽室には田野辺が、まなざしの向こうに確かにそこにいる。楽の電話の向こうには朝がいる。ゴミ箱の中の崎陽軒のシューマイ弁当のパッケージを見ればシューマイのことを思い出す。中でもやっぱり将門の存在感はめちゃめちゃ大きくて、手紙の落とし主を探す将門、学校中のピンクのチョークが無くなる大事件に巻き込まれた友達を助ける将門、太郎が出た電話に慌てる将門...目に浮かぶようだ。すっかり将門のことが大好きだ。でも、シューマイの紹介のところにある「将門ともっと仲良くなりたいとおもってるけどおもってるだけ」というの分かりすぎて泣けちゃう。深夜ラジオ(JUNK)が大好きな(逆)おとめのこともまるで自分のことのように思っているし、どうしてこんなにいつ高が大好きなのだろうと考えると、魅力的なキャラクターたち(出てくる役者すべてがハマり役で好演!)の中に「自分がいる」と思わせてくれるような親しみと優しさ、それをファンタジーとして引き受けきる器量がこの作品にあるからではないかと思う。すべてが愛おしいここはまさしく、いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校なのだな。

渡り廊下の美術も素晴らしくて、暮れていく陽や、暗くなると灯る蛍光灯、最後に楽の電話の話し声とともに明滅して消えていく蛍光灯の照明演出にもノスタルジーやセンチメンタルを刺激される。今回も固有名詞の数々に胸を鷲掴みにされ(ひもQの挿話たまらん)、宮藤官九郎好きとしては前回の『GO』に続き『木更津キャッツアイ』が出てきて嬉しい。いつ高のみんなの未来も100パー楽しいよね。

 

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青い街/フイルム

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 いくつかの台風が近くをかすめながら通り過ぎていくうちにするすると夏が終わり、もう秋になったのかしらというお日柄。9月末には思い出したかのようにぶり返す初夏の陽気。半袖という気分でもないけれど湿気もあるので何を着たら良いのかわからないなあと例年通り思いながらお気に入りのジャージを羽織って過ごしております。「去年は何を着ていたっけ」と思いながら服装に迷うのが季節の変わり目というもの。次の夏の始まりが来ても「去年は何を着ていたっけ」とおんなじことを忘れる準備はもう出来ている。

 

 15日木曜日。『新世紀エヴァンゲリオン』全26話を見終える。劇中のアナウンスや環境音、例のサントラ(デーンデーンデーンデンドンドンってやつ)、ヤシマ作戦シン・ゴジラだ~!といちいち興奮する逆転現象を起こしながら観た。2015年の話なんだな。「11才でドストエフスキー 15才でエヴァンゲリオン」は相当最悪なコースであることを感じ入りながら「普通の恋」(菊地成孔 feat.岩澤瞳)を聴けるようになりました。

 

『ぼくのおじさん』 特報

17日土曜日。 第9回したまちコメディ映画祭in台東で『ぼくのおじさん』を観る。おじさん(松田龍平)、最高です。ストーリーテラーでもある雪男(大西利空)のおじさんを見る眼差しや「~かい?」という小学生らしからぬ言い回しも素晴らしい。おじさんというキャラクターのおかしさだけに依拠するのではなく、小学生たちの会話のちょっとしたおかしさ(文脈は省きますが、雪男の同級生の女の子が「渡瀬恒彦みたいで格好良いよね」と言うシーンが好きです)、おじさんを完全に小馬鹿にしている雪男の妹、普通の両親(寺島しのぶがちょっとカリカリしている普通の母親を演じていて新鮮/チョビ髭の威厳ある父(宮藤官九郎)も普通の父親なのだけど、どこかおじさんの兄であるという説得力があって宮藤さんがキャスティングされた理由がわかる気がする)・・・周囲との関わりで引き起こる可笑しみが丁寧かつ冷静に描かれている。そして、こまごまとした描写が連なる普段の町からハワイへと広がっていくのも「映画的」で心地の良い画面の連続。大ヒット!しそうな派手なタイプでは無いけれど、コンスタントに続編が作られる映画になったら良いな。何度でもおじさんと雪男に会いたくなる。

 

劇中に登場する大橋裕之画のおじさん、舞台挨拶で大西利空くんがアロハシャツに人形をつけていてとっても可愛かった。大橋さんの作風と松田龍平、ぴったりですね。是非ともグッズとして発売よろしくお願いしたい。おじさんと雪男のアロハも欲しいけど公開11月だとアロハは無いかあ。

 

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 18日日曜日。今日もしたコメで『大江戸りびんぐでっど』。前日の『ぼくのおじさん』にも出演していたので実質宮藤官九郎2daysであーる。最後の戸板のシーンすごいな。宮藤さんも修正不可能のテンションで死神を演じる中村獅童、最高の最高でした。

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アンヂェラスでフルーツポンチ。

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京急の特快に乗ったら新幹線のような前向きのシートでわくわくする。「え?蒲田に?」の蒲田も通過するし。そういえば、デイリーポータルZで見たやつだ。たまに乗ると少し旅行気分になるけれど、日頃使うとなると窓際に座ったら下車するときに気を遣いそうだし立っているスペースも少ないしちょっと不便そうだな。

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 横浜で下車して西口方面を彷徨っていたらソープランド富士の立派な建物に遭遇する。なんとなくカメラを向けにくくて写真は撮れなかったのですが、ロゴといい飾り窓といい素晴らしかったな。なによりでかい。閑散としたオフィスビルや飲食店の中に突如表れるのでびっくりしてしまった。

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黄金町を散策。横浜橋商店街では神輿が出ていた。祭りの賑わいというよりは粛々と神輿が進んでいる不思議な雰囲気の、本当に商店街だけのお祭りで、知らないところに迷い込んでしまったかのようだった。あの場で地元の人間じゃないのはおそらく私くらいだったのでは無いだろうか。黄金町の川沿いから商店街への道のりには素敵な映画館ジャック&ベティ(ここで映画を観てみたい)。それから、もともとは「ちょんの間」であったことが関係しているのか住宅街のすぐ隣には風俗店や案内所がひしめきあっていた。風俗店やラブホテルのネオンと建物ってどうしてあんなに魅力的なのかしら。いつもは新宿や渋谷の繁華街でしか見る事がないので、生活圏にあるというのはどんな感じなんだろうと思った。ギラギラしているし浮かれたネーミングも子供心をくすぐるだろうけれどきっと当たり前の風景で、小学5、6年生くらいでどういうお店か知るのだろうか。もっと早いのかな。この辺りのお店で働く女性は結構遠くから来てるのかなあ。そうじゃないと、お客さんも近くの人なら知り合いに遭遇しまくりそう。

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試聴室その2にて『出張シングル・マン 〜もう秋なのさ〜』。主催のHi,how are you?原田晃行のライブからスタート。らんま1/2のTシャツにオレンジの短パンで、「なーんにもしたくない」と歌う姿はさながら夏休みの少年。色んなちょっとしたこととか気持ちが的確な言葉とメロディで歌われていて素敵だった。


Hi,how are you?「お盆」MV

VIDEOTAPEMUSICは真美鳥のカバー「骸骨の花嫁」「Sultry Night Slow」「Her favorite song」などをソロでしっとりと演奏。「Speak low」冒頭の音声は藤田敏八の映画『スローなブギにしてくれ』からのサンプリングで、劇中で浅野温子が住む黄金町の高架下のアパートの部屋で流れるニュースの音声だそうです。「黄金町のアパートのシーンのある映画が映画館で上映されて、VHSになって、レンタルショップに並んで、それを買って、サンプリングして、その曲を黄金町の高架下で演奏する、ということが面白い」というようなことを話されていて印象的でした。建物が建ったり全く違う風景になったとしても、その場所で起きたことは「場所」「土地」がある限り永遠に残るというのを昔文学の授業で聞いたのですが、それとは別にその場で記録された「映像」や「音」が時間を飛び越えて違うかたちで残り続け戻ってくる、というのも実にロマンチック。というか、営為とも結びついているようで、上手く言えないんですが、VIDEOTAPEMUSICの音楽と映像の魅力がこういうところに詰まっているなと思いました。

ランタンパレードはいつも挨拶以外喋らずに訥々と歌っていて格好良い。本人の佇まいや声質からか、歌っているのに変な表現ですけど、「黙々と」という言葉が似合うなといつも思う。そうは言っても素っ気ない感じでは無くて、ギター一本だとより声と詞がするすると入ってくる。「魔法がとけたあと」の「生きることに飽きないために 眠りについてるみたい」という歌詞が何度聞いても好きだ。

最後は原田晃行、VIDEOTAPEMUSIC、ランタンパレードの3人で一風堂「すみれSeptember Love」をカバー。狭いステージに3人並んで、サビで声を合わせる姿がなんだか可愛かった。とても良いライブだったな。

 

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21日水曜日。ユジク阿佐ヶ谷にてヤン・シュヴァンクマイエル『闇・光・闇』『対話の可能性』、ヴェラ・ヒティロヴァ『ひなぎく』の同時上映を観る。『対話の可能性』、面白すぎて興奮する。『ひなぎく』は50年経っても色褪せるどころかメイクもファッションもアートワークも今なお鮮烈。二人が「悪いこと」をする姿は今の時代においての方が切実かもしれない。

 

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WWW Xにて『REAL IS BACK』。夏フェスの類には行かなかったのでグループ魂のライブを見るのは去年の野音以来だ。「さかなクン」で石鹸がトチって以降、石鹸を見ながらタイミングを合わせて歌う破壊がニヤニヤしてて最高でした。アンコールでのTH eROCKERSとの「非常線をぶち破れ」「セルナンバー8」素晴らしく格好良かった。

 

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24日土曜日。片想い『QUIERO V.I.P.』レコ発ワンマンライブ。「Party Kills Me(パーティーに殺される!)」PVのパペットの登場や、紙吹雪、アンコールでのおっさんコーラス隊(めちゃかわいい)の登場などなどの演出と演奏のバランスが良い塩梅。本当に素晴らしいライブだったな。


片想い / Party Kills Me (パーティーに殺される! )

終わりゆく夏への献花

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2日金曜日。赤坂ACTシアターにて劇団☆新感線『Vamp Bamboo Burn ヴァン!バン!バーン!』を観劇。ヴァンパイア、ヴィジュアル系、ヤクザ、竹取物語、(なぜか)沖縄・・・混ぜるな危険というか混ざるのそれ?という要素がぐちゃぐちゃに盛り込まれ、その上にこれでもかという程のネタが乗っかっている宮藤官九郎の戯曲に、ネタのひとつひとつにこれでもかという程の派手な演出をいのうえひでのりが付けたまさに「トゥーマッチ」な作品でありました。それに加えて歌あり、バンド演奏あり、踊りあり、殺陣ありで、それはそれは見疲れてぐったりするほど楽しい、全てにおいてトゥーマッチ。書き出したらキリがないほど好きなネタや、あのキャストのあのシーン!というのがあるのですけども、中でも徳永ゆうき(役名も徳永ゆうき)の意外性と存在感が気になって仕方なかった。面白げな若い演歌歌手の人ね~くらいの認識だったのですが、派手な新感線ワールドの中で、駅員の衣装と電車のアナウンス真似(プロフィールに撮り鉄とあったので特技なんですね)が妙にハマりまくっている男。巻き込まれていく人物なので、良い意味で普通(でもどこか普通じゃない)の存在感が際立っていました。意外なほどに歌のシーンは少なかったのですが、芝居もとても良かったです。これからちょくちょく役者もやって行くのだろうか。気になる。

そしてそして、最大の見せ場であるクライマックス、TOSHIRO(生田斗真)と京次郎(中村倫也)の殺陣の見ごたえは半端じゃなかった。二人の所作の美しさに加えて、恐ろしいほど息があっていて武器がスレスレまで振りかざされるので息を殺して見入ってしまいました。殺陣や台詞は王道の新感線的でもあるのだけど、その相手がかぐや姫小池栄子)本人では無く、乗り移られている京次郎という「捩れ」が宮藤さんらしい。捩れに捩れて最終的に対峙するTOSHIROとアリサ(小池栄子)、最後を飾る立合いでの小池栄子の足の開き方と腰の落とし具合の格好良さに痺れる。小池栄子、舞台で観る度にマジ最高だなという思いが高まっていきます。

 

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4日日曜日。ニッポン放送イマジンスタジオにてはえぎわ『其処馬鹿と泣く』を観劇。初はえぎわ。女(川上友里)と男(清水優)の出会いのシーンが最高。宮崎吐夢演じる男の表層的なおかしさと、滲み出る哀しさが絶妙で見入ってしまった。はえぎわ所属じゃないのに最後にひとりで挨拶してるのおかしくて良かったなー

劇中で人と人を出会わせる糸が絡み合う舞台美術や、イマジンスタジオのガラスを利用した演出もとても綺麗。あと、清水さんの衣装の蟹や車がプリントされたシャツがとても可愛かった。

 

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上野で下車し、東京都美術館にて『木々との対話 再生をめぐる5つの風景』を観賞。須田悦弘の《バラ》、近くで見ても本物かと見紛うほど美しい。本物みたいで凄いとか技術に感動するのもあるのだけど、人間の手によって自然的なものが再現されることで宿るオーラというか、何かを超越しそうな危うさを感じる。今回の展示での《バラ》以外の須田さんの作品は見逃しそうなほどさりげない配置は、もうちょっと素朴な感じ。

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國安孝昌《CHI VA PIANO VA LONTANO 2016(静かに行く人は、遠くへ行く。)》。吸い込まれそうだ。

 

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上野公園に来る度に可愛いなと思いながら遠巻きに眺めていた上野動物園前のこども遊園地、この日は人が少ないようだったので近づいてみると8月31日で閉園していた。賑やかな中にぽっかりと廃墟(というほど古びてはいないが)が出現したようで、興奮気味に写真を撮る。無くなってしまうのは寂しいな、と思いながらも営業を終えた遊園地にロマンを感じてもいる。ミニチュアみたいなサイズ感がとても可愛い。

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この度、地主である東京都から「動物園の魅力を高めることを目的とした正面前広場の整備工場」の支障となると許可を取り消されましたので、やむを得ず8月31日を(水)をもちまして廃業いたしました。

と看板にはっきり書いてあった。この遊園地、めちゃめちゃ動物園の魅力高めてるじゃないですか。公園口前の上野百貨店、松竹デパートも味気ないビルになってしまったし跡地はどうなるのだろうか。しかし、この大きさでも撤去するの結構大変そうなので、ずっと廃墟のまま遺り続けていてもそれはそれで良さそうだ。

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 遊園地といえば、浅草花やしきのBeeタワーも老朽化で引退してしまいますね。しかも解体されてしまうそうだ。

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以前お花見で訪れたときに乗ったのですが、強い風でも吹いたら落ちそうでなかなかスリリングでした。このタワー、花やしきのランドマークだと思うのですが、解体したら新しいタワーを作るのかしら。素敵なのが出来るといいな。

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花やしきのジェットコースターに密着した『ドキュメント72時間 浅草・大人のジェットコースター』も好きな回だ。取材NGで全身モザイクのカップルが多いのが印象的だったな。確かに秘密の逢瀬には穴場かも知れない。

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思い出しついでに書いておこう。以前何かのテレビ番組で、花やしきを貸し切って披露宴をあげたカップル(正確にはその披露宴を手伝う友人だったかな)を取材していたのだけど、新郎新婦があの動くパンダの乗り物に乗ってステージに登場していてとても可愛かったのを覚えている。こんな披露宴ならあげてみたい。

 

 10日土曜日。借りてきた『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観る。何度観ても好きな映画だ。七海が代理出席する結婚式、司会が堀潤で重婚の新郎が紀里谷和明なの味わい深い。今回はレンタルしたのだけど、プレミアムボックスの装丁がレコードジャケットのようでじわじわと欲しくなっている。

 


「後妻業の女」予告

11日日曜日。TOHO渋谷にて『後妻業の女』を観る。『君の名は。』も気になるところですが、Only Love Hurts a.k.a. 面影ラッキーホールのライブの前に観るならコッチだろうということで。客席の年齢層は高く、上映前に隣のご婦人がスマートフォンで麻雀のゲームをしているのがチラっと見えてなんだか気分が高まる。

冒頭のクルージングでの橋の下の影や、軽トラでのカーチェイス(?)などなど映像の渋さに加えて、倫理観はそこそこに小夜子(大竹しのぶ)と柏木(豊川悦司)のキャラクターと業の深さを魅力たっぷりに描いているところがとても好みの作品だった。中瀬耕造(津川雅彦)の娘・朋美(尾野真千子)と興信所の本多(永瀬正敏)が二人を追う対立項を作りながらも、実は本多も食えない奴だったという展開も好きだ。小夜子と柏木が老人たちに手を下すシーンが挿入されているものの、全体のコメディタッチにつられてその残酷さが薄れていくのもおそろしい。

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そしてそして、オープンしたばかりの渋谷WWW Xにてライブ「O.L.H.のだいじょうぶかぁ!?」。オープニングアクトの漢 a.k.a GAMIとD.O.は田代まさしのドタキャンをネタにパフォーマンス。「リハビリマーシー」という曲があるんすね。「だいじょうぶだぁ」って言えないって。急遽出演が決定した畑中葉子は流石の歌とパフォーマンス。振り付けもエレガントだわ。ヤン富田による新録「後から前から」ではミックスの部分を口パクはしない、ということで実際に歌っていてなかなかトリッキーでした。

O.L.H.は「激しく後から前から」という歌詞がある「たまプラーザ海峡」でスタート。aCKyはいつものスーツではなくエミリオ・プッチみたいな大柄の半袖シャツ、麗しきコーラス隊の三人もサマーワンピースでトロピカルな装いがこれまた素敵。夏の残り香を燃やすような最高のライブでございました。MCでマーシーのドタキャンをイジりつつ「夜のみずたまり」などを披露。終盤にはマーシーからのビデオレターというサプライズもあり、ダルクの方へ行っていて今回は来れなかったそうです。アンコールで披露された畑中さんとの「カナダからの手紙」もとても素敵だった。しかしaCKy、MCで先日心臓疾患で病院に運ばれたと話していて、ステージにはニトログリセリン、「今夜、巣鴨で」のイントロで血圧測定、終盤は息切れする場面もありかなり心配だ。それでも声は衰えるどころか絶好調なくらいでめちゃくちゃ格好良くて、歌っている姿はまるでトヨエツ、いや、それ以上でした。