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私事で恐縮です。

VIDEOTAPEMUSIC one man show "Her Favorite Moments"

 

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12月10日、渋谷WWWで開催されたVIDEOTAPEMUSIC初となるワンマンライブ"Her Favorite Moments"。会場に入るとステージには大きなスクリーンに加えて大小6台のブラウン管テレビにHer Favorite Momentsのネオンサインが光り、ミラーボールをカラフルな照明が照らしている。異国のクラブパーティにでも迷い込んだかのような空間だ。19時になるとスクリーンには映画が始まる前の予告編のように7inch『Kung-fu Mambo』、坂本慎太郎との12inch『バンコクの夜』、配信シングル『Sultry Night Slow』、アルバム『世界各国の夜』のコマーシャルが次々と流れ、本編の開始を告げるように再びHer Favorite Momentsのネオンが現れるとVIDEOTAPEMUSICとバンドメンバーが登場した。フライヤーに描かれた交差点に人や車が往来する映像とともに演奏がはじまり、レトロスペクティブなネオン瞬く交差点はいつしか現在の渋谷スクランブル交差点へと変わっていく。カメラはセンター街の雑踏を抜け、見覚えのある階段を登っていく。辿り着いたのはまさしく今日の会場である渋谷WWW。なんと完璧なオープニングだろう!これから映画が始まるというときのあの得も言われぬ高揚感。映像と演奏が混ざり合い、いまここにしか無い空間が作り上げられていく様には興奮を禁じ得ない。あの素晴らしきオープニングを忘れずにいるために言葉で書いてみるものの、素晴らしさの微塵も表現できないのがもどかしい。しかし、拙くとも書かずにはいられぬほどに素晴らしいワンマンライブだったのだ。

 

オープニングの高揚感を損なうことなく、ライブは様々な表情を見せながら展開していく。ライブではお馴染みのメンバーである松下源(パーカッション)、高橋一(トランペット)、増田薫(バリトンサックス)、潮田雄一(ギター)にDorian(キーボード)を加えた編成はメロディアスでより一層ゴージャスな雰囲気だ。新曲「密林の悪魔」は低音と歪んだギターが格好良いキラーチューン。ハトヤ、密林、ハワイ、団地などをテーマにした楽曲と映像に身を委ねていると、今が12月であることも、ここが渋谷であることも忘れてしまいそうになる。


VIDEOTAPEMUSIC / Sultry Night Slow【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ソロで演奏された「Pianican night club」と「Her favorite song」では時空さえ越えて心地の良い悪夢のような音と映像の世界が繰り広げられる。映像も終わり真っ暗になった会場にピアニカの音だけが響き渡った「Pianican night club」の最後も忘れがたい。ときに、CD-Rなどでリリースされた過去の曲を再録したアルバムを出してはくれないかしら。


VIDEOTAPEMUSIC「PIANICAN NIGHT CLUB」

泊の山田参助を迎えての「青いドレスで」(泊)、「Hong Kong Night View」も素晴らしかった。ブラウンの中折れ帽、チェックのシャツに着物の着流しという粋なスタイルの参助さんがなんとも素敵だ。サンプリングを用いない生演奏をバックに歌われた「青いドレスで」は楽器のように声を操る参助さんのボーカルが豊かに響きあう。

「Kung-Fu Mambo」や新曲「熱い砂のルンバ」「Slumber Party Girl’s Diary」と畳み掛けるような終盤に演奏された今回のライブタイトルを冠した新曲「Her Favorite Moments」は新たなステージを感じさせる一曲だった。「これは2016年の福生を捉えた映像である。」というオリジナルのナレーションが付けられた福生の映像。街並みに続いて映し出されるのは基地のお祭りで踊る外国の少女たち。


VIDEOTAPEMUSIC One Man Show "Her Favorite Moments" Trailer

この光景については2016年のベストにRihanna「Work ft.Deake」を挙げたこの記事で語られている。

fnmnl.tv

 今年の世界的なヒットであることは間違いないと思うのだけど、それ以上に個人的な体験として、今年9月に福生横田基地の祭の片隅でこの曲を音の割れた安物のコンポで流しながら合唱し踊る十代半ばくらいのアメリカ人の少女達の楽しそうな姿が記憶に焼き付いている。海のむこうのグローバルなヒット曲が、東京郊外のローカルな風景の中で美しく鳴っていた瞬間。

 2016年の映像に乗せてナレーションは「当時の曲を聞いてみましょう。VIDEOTAPEMUSICでHer Favorite Moments」と曲を紹介する。つまり、未来に置かれた視点から現在を見ているということである。VIDEOTAPEMUSICがこれまでサンプリングしてきた過去の映像群に現在のものがオーバーラップし、更にその先から俯瞰した視点の登場。これまでも単なるノスタルジーやエキゾな心地よさのみに陥いるのではなく、かつてどこかで鳴っていた音楽が、再び再生され現在と繋がるというロマンやその揺るぎない事実に自覚的であるところが魅力のひとつであったが、ここへきてより一層、過去・現在・未来へのアプローチが可視化されてきたように思う。VIDEOTAPEMUSICの音楽と映像に宿るノスタルジーには、その殆どが初めて見聞きするもののはずがどこか知っているような気にさせられる普遍性があり、これらは「誰かにとっての何処か/何時か」なのだという実感が伴う。映画からのサンプリングとリフレインが巧みであることは言うまでもなく、その一瞬一瞬に特別で親密な空気が流れているのだ。これは彼の対象への眼差しでもあるのだろう。

更に面白いのは極私的な事柄がライブという体験によって共有されること。アンコールで演奏された「煙突」に関するエピソードが語られたのだが、この曲のメロディは当時PHSに打ち込んだものを布団に押し付けながら流して録音し、低音を拾ったのだという。また、今年の7月に行われた立川のギャラリーセプチマでのライブ『棕櫚の庭』では、映像に登場する煙突は実家から撮影したもので、多摩モノレールから見えると話していた。勿論これらのエピソードを知らなくても「煙突」という曲は素敵なのだけど、この曲を通して当時のVIDEOさんに接続したような気分になるのも楽しみ方のひとつだと思うのだ。

先述の「Her Favorite Moments」に映る彼女たちも、彼女たちの人生の中ではほんの一瞬の光景に過ぎないのだけど、こうしてVIDEOTAPEMUSICが捉えたことで、私はあの子たちに接続することができた。また、ライブ中には気付かなかったのだけども、構図から色使いまで全てがパーフェクトなフライヤーを眺めていると、交差点の建物に「三千里」の文字があることに気付く。ということは、この交差点は渋谷ということだ。私たちの知らない過去の渋谷と、過去の人たちの知らない現在の渋谷が接続する。時代、季節、場所、時空、過去・現在・未来の境界をシャッフルし混線させることで出会うどこかのだれかのいつかの瞬間。そして演奏と映像によってその瞬間を立ち上げるライブという表現空間もまた、その瞬間にしか存在しない刹那的なものだ。半永久的な映像記録と刹那的なライブという相反する媒体。永遠の一瞬に身を委ね、今夜は踊ろうではないか。


VIDEOTAPEMUSIC/世界各国の夜 (Digest)

 

素晴らしいワンマンライブの興奮を引きずってごちゃごちゃと書き散らしてはみたが、だんだん訳が分からなくなってしまった。初めてライブを見たときから感じている、都築響一『ROADSIDE JAPAN』とそのフィーリングを受け継ぐ雑誌『ワンダーJAPAN』や『八画文化会館』周辺のカルチャーとの親和性についてもいつかまとめてみたい。支離滅裂の文章を通して結局何が言いたいかというと、VIDEOTAPEMUSICは最高!大好き!ということです。新曲群もキラーチューン揃いで、既存の曲もフレーズや映像がアップデートされていて今後の展開が楽しみで仕方ない。本当に素晴らしいワンマンライブでした。