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私事で恐縮です。

2021年の雑感

f:id:Vanity73:20211229180241j:plain2021年は、正規採用で定職に就き、実家を出て神奈川でひとり暮らしを始めた。振り返ってみると、2017年に大学を卒業してフリーターになり、アルバイト先で恋をして周回遅れの青春みたいな1年を過ごしてみたり、2018年には色々あって移った新しい職場が肌に合わず苦しんだり、2019年には恋人に振られて15㎏ダイエットしたり、2020年にはコロナ禍で就職活動をしたり、ここ5年間は何かと変化の多い年月だった。4月から勤めはじめた職場は肌に合っていて、この先も頑張っていけそうだと思っている。ひとり暮らしも自分のルールと計画を淡々と遂行できるリズムが快適で、車で2時間もかからず帰れる実家との距離感も含めて気に入っている。フリーターを脱しなければという焦燥感から解放されて、それなりに自立した暮らしを手に入れたいま、安堵と同時に「もうすることがない」という感覚がある。もちろん仕事を続けるというのはいちばんだけれども、学生生活、就職、のような人生の主要なイベントで残されているのは両親を看取ることくらいだろうか。不慮の事故でもない限り年齢的にはまだ先だろうけれど、避けて通れないものはそのくらいだろうと思っている。

f:id:Vanity73:20211229175602j:image2020年までは休日には毎週のように演劇、ライブ、映画、美術館に通っていたけれどそれが断たれて、いちど習慣がなくなると自分でも驚くほどそういうものを見に行くことが減った。都心が近ければ抵抗も少ないのかもしれないけれど、車移動で電車にも乗らなくなると、人混みに対する耐性が本当になくなって、この2年間で醸成されてしまった出かける娯楽に対する罪悪感のようなものも拭えない。特に今年は、自分では余裕ぶっているつもりでも新しい生活に慣れるのに精一杯だったのかもしれない。

実際に劇場に足を運んで観た演劇は、ロロのいつ高シリーズ『ほつれる水面で縫われたぐるみ』『とぶ』とNODA・MAP『フェイクスピア』の2本。配信で空気階段『anna』『大踊り場』、宮藤官九郎『愛が地球を救います(ただし屁が出ます)』、松尾スズキ藤本有紀『パ・ラパパンパン』、ロロ『Every Body feat.フランケンシュタイン』を観た。今年はキングオブコントの優勝もあっていっそう空気階段に夢中な1年だった。後にも先にも、今年以上に熱中してKOCを見ることはもうないだろう。

f:id:Vanity73:20211229175651j:image映画館にはいちども行かなかった。『花束みたいな恋をした』も『サマーフィルムにのって』も『子供はわかってあげない』も『ドライブ・マイ・カー』も観ていない。そのかわりに、自宅で映画を見る習慣が付いた。今年の9月頃は、U-NEXTから再度トライアルの案内が来ていたので登録して、ヴィム・ヴェンダースジム・ジャームッシュの映画を集中的に見た。後日AmazonPrimeでも配信が始まったけれど、エリック・ロメールが見たくて「ザ・シネマ」に1ヶ月登録した。ウォン・カーウァイもあるしミニシアター系と謳っているだけあって魅力的だった。
U-NEXTに登録したときのことは妙に記憶に残っている。数年前、就活の帰りに寄った多摩センターのイオンシネマで声をかけられて、映画が1本無料になるというのでトライアルに登録したのだ。当時話題になっていた新海誠『君の名は』を観た。館内には朝井リョウ原作の映画『何者』の大きなポスターがあって、私はリクルートスーツ姿だったのでキャンペーンのお兄さんと「あれ(何者)見るんですか?」「さすがにタイムリーすぎて見られないですね」という会話をした。映画を観たあと、たしか下北沢に泊のライブに行くので時間をつぶすために、多摩センターのショッピングモールで海鮮丼とクレープを食べた。平日の夕方、小雨ということもあって人もまばらだった駅前のショッピングモールで、セール中のクレープ屋さんにだけ列ができていた。今でもぼんやりと思い出すたびに多摩センターに行きたくなるのだけど、私が行きたいのは「あのときの多摩センター」であって、いま同じ場所に行ってもきっと違うのだ。そういえば、U-NEXTではじめてサブスクを体験した。久しぶりに見るとお笑いの単独も充実しているし映画も好きなラインナップだけど、どうしても値段がネックになって登録に進めない。

f:id:Vanity73:20211229175724j:image美術展は、感染者数が落ち着いた下半期にお出かけを兼ねていくつか足を運んだ。水戸美術館の『佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在』が素晴らしかった。昨年、原美術館で見て胸を打たれた「東京尾行」をはじめ、ただ通り過ぎる人や揺れるブランコ、飾られた花瓶など、佐藤雅晴が写し取らなければ忘れられていったであろう風景がそこにあり、永遠に見ていたかった。cero「入曽」の、

誰も渡らない信号機が 赤になって 青になって また赤になる

という歌詞とそこから立ち上がる情景が好きなのだけど、映像を見ているあいだずっとこの曲が頭に流れていた。

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f:id:Vanity73:20211229175826j:image営業終了した熱海のホテル、ニューアカオを会場にした『ATAMI ART GRANT』も見に行った。完全に建物が目当てでお昼と夕方の2回赴いたのだけど、薄暗い大きな宴会場は夢に出てきそうなくらいゾッとした。とてもいい体験として、この先何度も思い出すだろう。

f:id:Vanity73:20211229175927j:image以前は通勤電車で本を読んでいたのが、自転車と車の通勤になってから本を読む機会がぐっと減ってしまった。読みたいと思いながらも、いざ開いてみると集中力が続かない。本に限らず、全体的に集中力や感受性、理解力が低下しているのを感じる。昔みたいに、夢中になることがなくなってしまった。自分ではストレスを感じているつもりはなかったけれど、この2年間での世界や個人的な変化に少なからず影響を受けているのかもしれない。いままでの趣味に費やす時間が減り、休日に何をしているかというとドライブに出かけることが圧倒的に増えた。実家の車を買い替えたタイミングで譲ってもらった軽自動車を乗り回して、横浜、湘南、箱根、熱海など比較的近場をうろうろしている。免許を取ってから3年ほどは全くハンドルにも触れていなかったのに、今では土砂降りの首都高だって走れる。夏の間は昼の高速料金が上乗せされていたので、実家に帰る際には深夜の首都高を何度か走ったのも楽しかった。以前は遊びにいく場所だった東京が、今年は通り過ぎる街になった。

f:id:Vanity73:20211229180123j:imageいまのところ仕事でも大きなストレスはなく、生活の中での関心は体重と支出の数字ばかりだ。野菜中心で、揚げ物など油ものを摂取しない食生活を送っていたら4月から約5㎏体重が減った。3度の飯より甘いものが大好きで、はじめのうちは摂生していたけれど最近それも崩れてきた。それなりにまじめに働いているのだから、食べたいものを食べて、欲しいものを買って、行きたいところに行けばいいではないか、という気分と、体型や家計を自律して整えることができる自分が好き、という自己肯定感が周期的に拮抗する。痩せる前は時間も気にせず食べたいものを好きなだけ食べていて、そりゃ太るわという生活だったのだけれど、たまに何も気にせずものを食べていた頃に戻りたいと思うことがある。ダイエットをはじめて気付いたのは、一度始めると一生終わりがないということだ。長期休暇で1週間ほど実家に戻ると自宅では出てこない料理やお菓子が山のようにあり、堰を切ったように食べて2~3kgは増える。過去の体重の増減を見て1週間で戻せると確認したり、身長に対する標準体重を検索してまだそこに達していないことに安心して食べたり、不健康だと思う。昔と比べて「痩せた」という事実があっても、現状の自分を完璧に「痩せている」とは思えないのだ。

しかし、体重が減ると身体から丸みが削がれて、髪も耳より上の短さにしていると、外見から「女性的」な記号がなくなり、自分から性別がなくなったようだと思うようになった。マスクをしているとさっとアイメイクをするだけでお化粧をほとんどしなくなったのもある。ありがたいことに職場もジェンダーを感じさせるようなストレスはなく、知らず知らずのうちに「しなければいけない」と刷り込まれていた結婚や出産もマストではないと思えるようになって、生きていくうえで肩の荷が降りた。

f:id:Vanity73:20211229085102j:plain年末年始の区切りに新鮮ですこしおごそかな気持ちになって、ひと月もしないうちに崩れていくことはわかっていても目標を立てたくなる。来年は、コンビニで無駄遣いをせずに、甘いものは仕事を頑張れたタイミングで少し良いお店にパフェやケーキを食べに行くこと、家で本を読む時間を作ること、感じたことを言葉にすること、自律神経が乱れる前に意識的にたんぱく質を摂ること、腹筋を割ること、仕事中に身体が凝らないように姿勢に気を付けること、だらだらとSNSを見ないこと、毎月の収支を少しでもプラスにすることに努めたい。それから、夏の休みには車で神戸と尾道へ旅をしたい。定職に就いて大きな不安がひとまず解消されたので、来年からはとにかく健やかに仕事と生活を続けることができればいい。何があっても私には私がいると思えるくらいの自信もついてきた。柴田聡子の「雑感」がいまの気分や考えていること重なって、何度も聞いた。聞けば聞くほど、歌詞の一言一言にメロディが付いて歌われているということが奇跡のように思える曲だ。

トイレの鏡に映る私は私を焚きつける

諦めない顔と目つきは格好良くてしびれる


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