ニュースクラップタウン

私事で恐縮です。

あこがれ

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来ようと思えばすぐに来られるのに、なぜか足を運ばずに時間が経ってしまった場所というのがいくつかあって、伊豆にある「怪しい少年少女博物館」もそのひとつだ。何年も前に、テレビ番組でいわゆる「B級スポット」として紹介されているのを見て知ったのはもう10年以上前のことで、当時イオンモールヴィレッジヴァンガードを入り口に「サブカル」に足を突っ込み始めていた自分にとって、それはそれは魅力的だった。その後、雑誌『ワンダーJAPAN』などを経て都築響一に辿り着いてより深いところを知って、ヴィレヴァンにも時間つぶし程度にしか寄らなくなった今でも、ここは原体験としてずっと憧れの場所だったのだ。

テレビや雑誌、インターネットで見ていた大量のマネキンやおもちゃ、ぬいぐるみ、フィギュア、テレビゲームなどを目の当たりにして感じたのは、「怪しい」と銘打っているものの、奇を衒ったあざとさがないということだった。ふと、子どものころに家にあっただんご三兄弟やキティちゃんのぬいぐるみが飾られているのを見て、ここは日本の風俗史が詰まっていると同時に、個人の記憶が凝縮されているのだと思った。

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怪しい少年少女博物館」から車で10分ほどの姉妹館「まぼろし博覧会」へ。広大な土地にエリアごとにテーマを分けた展示があり、昭和の街並みや文化を再現したゾーンや閉館した秘宝館のマネキンなど、整然とした展示ももちろん見ごたえがあるのだけど、ある人のおばあさんの形見がまるでその人が暮らした部屋をそのまま持ってきたような空間で展示された「おばあちゃんの部屋」やもはやカテゴライズ不能なガラクタが詰め込まれた「ほろ酔い横丁」が圧巻だった。これは忘れられていくこと、時代の流れとともに淘汰されていくことへの抵抗なのだと思った。経済成長の名のもとに生産され、捨てられていくサイクルに反抗するように、とにかく捨てない。なんでもないようなお土産の外箱までもがここでは展示物になる。
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この日は3月にしては暑いくらいの晴天で、遠くの山が見渡せて、敷地には菜の花が咲き乱れている。開館直後で人も少なく静かな中であらゆるものに囲まれてながら、大げさだけれど、「ここは私の墓場だ」とすら思った。来る前はもっと、奇を衒った見世物的な雰囲気を想像していたけれど、まったく違うことがどのエリアからもわかる。
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憧れの場所が想像以上に自分にとって重要な場所だった感慨に耽りながら、135号線沿いで開かれていたフリーマーケットに立ち寄ると、さっきの延長のように、いろんな人がいろんなものを広げていて、中には自宅で眠っていたような食器や服もあって、この光景にすら感動してしまった。かわいいたぬき(くま?)の貯金箱を見ていたら、おばあさんが「100円だよ。それ私もかわいいと思う」と言うので買った。
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お昼は135号線を逸れたところにひっそりと佇むJikkaへ。

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おとぎ話にでも出てきそうな建物の中で、地元の野菜や海藻、柑橘をふんだんに使った美しい料理が次々に出てきて夢のよう。ポークとしじみの煮込み料理がとても美味しかったのだけど、「ポルトガルの海沿いの方の料理」というざっくりとした説明で気取りが皆無なのも心地よかった。
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カウンター席で盛り付けや給仕を眺めながら、料理を拵えて提供する、という営みのシンプルさを感じられて心地よかった。
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そしてもうひとつの憧れの場所、伊東のハトヤホテルへ。わたしの一番好きなアーティストVIDEOTAPEMUSICの名曲「ミスハトヤ」や、2014年に開催された「ライブインハトヤ」など(開催当時、このイベントを知ったときにはまだVIDEOさんのことを知らなくて、足を運ばなかったことをいまだに悔やんでいる。)、とにかく惹きつけられる。部屋に入り、障子を開けた瞬間に目の前に飛び込んできたハトヤの大看板。感無量である。


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f:id:Vanity73:20230313163115j:imageチェックイン後は伊東の街を散策。Jikkaで満腹になることを見越して夕飯は付けなかったので、梅家のホールインと三木製菓のケーキを買って部屋で食べた。
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高度経済成長期やバブルを経て、時代の空気を凝縮したようなきらきらのシャンデリアや絨毯、機能性や合理性とは無縁の美しさがそっくりそのまま保たれている。日常を離れて夢を見せる観光という矜持。いつでも来られると思うとなかなか足が向かなかったり、写真や映像を見て憧れを募らせる行為だけで終わってしまうことばかりだけど、やはり自分の目で見るべきで、来てよかったと心から思いながら、赤く灯ったハトヤの文字を見ながら眠った。