ニュースクラップタウン

私事で恐縮です。

愛の作法

わたくしの二十世紀

2018年の1月は坂元裕二の新しいドラマ『anone』がはじまって、菊地成孔SPANK HAPPYの再結成を宣言し、東京に大雪が降った。私は好きな人と2回出かけて、映画と美術館へ一緒に行った。2月にも約束してあって、いつか遠出もしたいねと話している。用心深い私もさすがにこれはひょっとしたらひょっとする展開と思う反面で、このくらいは異性の友だちとしても普通という価値観なのかも知れないし、と予防線を張って切なくなったりしている。色々と話をしていると、年齢や性別に分け隔てなく人と関わることが好きでとても大切にしていることがわかる。そこがとても好きだし尊敬しているけれど、もしかしたら私に対する態度も恋愛でもなんでもなく特別なものではないのかも知れないなとふと思ってしまう。だとしても、私は好きなのである。あなたのことどれだけ好きだと思ってんの?と喧嘩腰になるくらいの気概で来たるバレンタインデーへ向けてチョコレートを物色をする毎日だ。

f:id:Vanity73:20180202203346j:image1月に観たものや行ったところについて少しずつ書き溜めてはいたけれど気付いたら2月になってしまって、毎度のごとく公開するまでもない文章が集積している。舞台はシディ・ラルビ・シェルカウイ演出『PLUTO』、エレ片『新コントの人』、福原充則演出『秘密の花園』、ロロ『マジカル肉じゃがファミリーツアー』、玉田企画『あの日々の話』を観た。こうして並べてみると幅の広い表現に触れたひと月だったなあ。どれも面白かった。ロロはなんだかもうきらきらのぴかぴかで最強だ。無敵だ。大好きだ。玉田企画も面白すぎて、玉田真也の天才ぶりにため息が出る。役者としても力があって、宮藤官九郎とか岩井秀人とかそういうレベルにあっという間に達してしまうだろうな。7月の公演にはロロの島田桃子さんが出るそうなのでとても楽しみだ。

『anone』は現在4話まで進んでいますが、ストーリーもぐんぐんと面白く、かつ叙情的で世間や社会では零れ落ちてしまいそうなものを丁寧に掬い上げていて、なんだかもう凄い。広瀬すずもずっと最高だ。3話での西海(川瀬陽太)が迷い込んだフェレットを帰しに行って芽キャベツを貰ってくるなんていうくだり、どうやったら書けるんだ。4話でのるい子(小林聡美)の生まれなかった娘のイマジナリーフレンド(と書いてしまうと大切なものが零れ落ちてしまう気がして躊躇われるほど、繊細で素晴らしかった)にはロロの三浦さんとの共鳴を感じた。野木亜紀子オリジナル脚本の『アンナチュラル』も楽しく観ている。うっかり2話を見逃してしまったのが痛い。3話の井浦新、こんな新が見たかったのだ!という感じで、役者の魅力を最大限に引き出していて嬉しくなる。


McRinna「I♡U∞」

luteのInstagramストーリーで24時間だけ見ることができる三浦直之脚本、松本壮史監督のミニドラマ『それでも告白するみどりちゃん』が面白い。みどりちゃん(りりか)がダンス、念力etc…あの手この手で谷口くん(中島広稀)に告白するという三浦さんのエッセンスが濃縮されたドラマ。AIのりんなの力を借りて告白する3話「濃厚!知恵しぼり大作戦」の

みどり:私の愛は、そんなググって出てくる言葉じゃダメなの

りんな:うん、わかった

検索しても見つからない愛を私が見つけ出してあげる

をはじめ、キラーワード満載。『デリバリーお姉さんNEO』が見返したくなるけれどGyaoでの無料配信はもう終わってしまっているのかー。私も好きな人のことが好きすぎてみどりちゃんの言ってることにぶんぶん首を縦に振ってる感じなので、誰かを好きになることや愛を伝えることを肯定してくれる三浦さんのことを心の中で味方のように思っている。

f:id:Vanity73:20180202195815j:image2月1日、神田の近江屋洋菓子店へ。白い苺やマスカットなど大ぶりの果物たちにも目を奪われつつ、はじめて訪れたのでここは定番の苺サンドショートを。ケーキもドリンクバーのフレッシュジュースや野菜スープも見た目通りの美味しさで落ち着く。少し高めのカウンター席、天井と同じコントラストのブルーと白の制服、薄くながれるABBAのダンシングクイーン…夢のような空間だ。空間が広いからかお喋りがこだましていても気にならないのが心地いい。

池袋へ移動してシネリーブルで大九明子監督『勝手にふるえてろ』を観賞。噂に違わぬ傑作。沢山の人が思うことだろうけど、御多分に洩れずヨシカ(松岡茉優)はあまりにも私だ。私はヨシカだ。私も視野見(しやみ:視界の端で好きな人を見ること)、できるもの。私ごときが…と卑下しながらも自分のことしか見えていない感じとか、自分がイチ(北村匠海)に何かをもたらした記憶にうっとりとすがってしまうところとか、わかりすぎて泣いてしまう。人と関わるの大変だよね、でも喋りたいよね、できないけど、でも、誰かに名前を呼んでほしいよね。あと写真でLINEを交換する手口、ちょっと似たようなことをやったことがあるので死ぬかと思った。わかる、という同意や共感ばかりが口をついて出てしまうけれど、それだけじゃないパワーがこの映画にはあって、なかなかうまく言葉にできない。そして松岡茉優の筆舌に尽くしがたい素晴らしさ。『問題のあるレストラン』6話で二階堂ふみ高畑充希と公園のベンチに座りながら、ふたりを眺めて「生きててよかったな。生きような。」と呟くシーンが私の中で最高の松岡茉優だったのですが、あの良さが2時間ずっと続く感じ。

パビリオン山椒魚 オリジナル・サウンドトラック

Netflix冨永昌敬監督『パビリオン山椒魚』を観た。昔観たときは訳のわからない映画という印象だったけれど結構面白いぞと見進めると、最終的にやっぱり訳がわからなくて良かった。いかにも意味がありそうでまったく意味がないのが最高。わからないでいいということがわかるようになった。オダギリジョー香椎由宇のラブシーンで、レントゲン車がシャボン玉で満たされるのがとても美しくて好きだ。なぜいまパビリオン山椒魚を観たかというと、3月公開の冨永昌敬の最新作『素敵なダイナマイトスキャンダル』が無性に楽しみなのである。菊地成孔と小田朋美が手がける音楽と主題歌「山の音」(尾野真千子末井昭のデュエット)も、予告編で聞く限り最高の予感。次のSPANK HAPPY尾野真千子末井昭なのかも知れない。


映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』予告編

2月2日、久しぶりになんの予定もない休日で昨晩からはらはらと小雪が舞っていたのもあって、夕方に散髪に出かけた他は家でぐだぐだと過ごした。ラジオを聞きながら部屋を少し片付けて、もういらないものを整頓しようかと思ったのだけれどものが多すぎて途方に暮れた。本棚も整理しようとして、本をあちらからこちらへ移動するだけで終わってしまった。大きめの棚を買って本やCDを一箇所にまとめたいと前々から思ってはいるけれど実現しない気がする。そういえばこの前、好きな人と家や部屋の話になって、衣食住の話なんて数ヶ月前には想像も出来なかったことだからとても嬉しくなった。どんな話も嬉しいのだけれど、触れられる領域が広がっていくようで。昨年末から2週に1回のペースで出かけていて、恋が留まるところを知らないのですが、思い上がるにはまだ早いぞと自分を鎮め、来たるべきときが来たならば、どんな風にこれまでとこれからの気持ちを伝えようかと考えている。

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平成30年年始報告

f:id:Vanity73:20180102003225j:image新年あけましておめでとうございます。平成30年という区切りのよい数字にして、元号が変わる前の最後の1年であります。だから何だと問われれば特に何もありませんし和暦にこだわりがある訳でもありませんが、1年のはじまりは些細なことも新鮮でぴかぴかに感じられるので書き記してみました。新しく買ったノートの最初のページはいつだって丁寧に書きたくなるものですから。年を越すと昨年のことを話すのはどうにも野暮のような気がしてしまいますが、昨年末の数日間のことも書き残しておきたい気分なので、年末年始を記録したいと思います。

私をスキーに連れてって [DVD]

27日に仕事を納めて冬休みに突入し、28日は神保町シアターのバブル映画特集で和田誠監督『快盗ルビイ』と馬場康夫監督『私をスキーに連れてって』を観賞。どちらも気持ちいいほどに内容が無くて最高だった。可愛くてハッピーならばそれでいいのだ。間違いない。『快盗ルビイ』の小泉今日子真田広之、とにかく可愛い。『私をスキーに〜』は原田知世の可憐さはもちろん良いに決まっているのだけど、黒髪ロングの高橋ひとみお姉さまが素敵だった。翳りのないハッピーな映画で気分を高め、翌29日は好きな人が映画に誘ってくれてふたりで出かけた。数日前から、これもしかしてデートじゃない?デートだよね?と何度も自問自答を繰り返していて、緊張するかと思ったけれど意外とリラックスできてとても楽しかった。素が出すぎてもっと綺麗な食べ方したかったとか、たまにちゃんと話聞いてなかったとか反省は山ほどあるけれど、カフェの窓際の席でおしゃべりした時間なんかを思い出すと今でも満たされた気持ちになる。あの時間に戻りたいという気持ちと、もっと沢山あんな時間を過ごしたいという欲張りな気持ち。多分デートと呼んでよいと思う一方で、おそらく私の気持ちには気付いていて私を満足させるために付き合ってくれたのかなとも思っている。思慮深い人だから、私に変な期待を持たせるようなことはしないのではないか、とも思うけれど、友だちとしてかもしれないし…という堂々巡りを、夕方から約束していた友人たちとの忘年会で延々聞いてもらった。話さないと落ち着いていられない状況で、ずっと同じことを喋ってもちゃんと聞いて盛り上げてくれて本当にありがたい。鍋を囲んでひたすら話し、終電間際まで1時間ほどカラオケへ。盛り上がってくると箸が転がるだけで腹がよじれるほど笑って騒がしくしてしまうので、カラオケが1番よいな。好きな人へのお礼のメッセージを添削してもらって、文末に「おやすみなさい」を付けるか否かで30分悩んだりした。

Mother [DVD]

Mother [DVD]

 

30日はひたすらテレビの前にいた。昨日の『有吉の壁』、アルコ&ピースのやってTRYよかった。あと三四郎の逃げ恥も最高。チョコレートプラネットやタイムマシーン3号がいつも素晴らしい仕事ぶりで好きだ。年末年始は特番に加えて、冬休みの間に『STARWARS』シリーズと、1月から始まる『anone』に備えて未見の『mother』を観るのだ。大忙しだ。飽きないようにスターウォーズⅣ、mother 1.2、スターウォーズⅤ、mother 3.4と交互に見ていたら、ダースベイダーがルークの父親と明かされ、松雪泰子は田中裕子が実の母親であると勘付き、図らずも親子の因果を感じまくる1日となった。夜は『クイズ正解は一年後』をリアルタイムで観る。劇団ひとりの「冨美沢梅男」の言い間違いが妙にツボにはまって思い出すたびにクスッと笑ってしまう。キンタロー。について猛勉強してるのも最高だった。有吉が『クイズスター名鑑』終了を当てていて、相当楽しそうなのにこの温度感が良いんだよなと思った。31日は母の買い出しについて行き、逃げ恥の一挙放送を眺めながら煮物の下拵えをした。いつも読んでいるいくつかのブログが次々と滑り込むように1年を振り返ったり年末にちなんだ記事を更新していて、それらを楽しく読んだ。紅白のひよっこコーナーは正直物足りなかったけれど、このささやかさこそがひよっこだったよなと思い直せばまた彼らの顔が見られて嬉しいものである。椎名林檎は相変わらず完璧で、フィナーレで頭飾りの蝶々を高橋一生吉岡里帆におすそわけし、きっちりと松たか子の隣をキープするデキる女ぶりに惚れ惚れとする。格好良い。年越しはここ数年私の恒例となっている「2355・0655」スペシャルで。静かな時報とたなくじで新年を迎えた。それから、好きな人が新年の挨拶のメッセージをくれて嬉しい。

f:id:Vanity73:20180102150537j:image元日はお雑煮とおせちを食べて、いつからか恒例行事となった浅草へ家族で出かける。一張羅の可愛い着物を母に着せてもらうのだ。出かけるまで時間があったので『スターウォーズ エピソードⅥ』を観た。なんか可愛いやつが沢山出てきて楽しい。お正月のネタ番組も色々と観たかったのだけど、タイミングが悪いのか観たいものに当たらず今年はDVDや録画に時間を費やした。『ゴッドタン マジ歌選手権』はバカリズム×Enjoy Music Clubが最高だった。江本祐介の名曲「ライトブルー」がまさかの…綺麗にメロディにはまっているものだから今後も思い出してしまいそうだ。

f:id:Vanity73:20180103001628j:image2日は佐野のアウトレットにでも行こうかと家族で出かけたものの、高速道路の出口から既に大行列が出来ていたのでスルーして栃木や群馬のあたりをドライブした。郊外の大きな道路に集まるチェーン店のネオン群はそれだけで切ない気持ちになる。いままであまり意識したことがなかったけれど、私は埼玉生まれ埼玉育ちで出かける度にこの同じような景色を見ていて、今も県道の景色が異様に好きなのはこれが私にとっての原風景ということになるのだろうか。車内BGMの選曲権を握っていたので、その原風景にどんぴしゃで訴えかけてくるVIDEOTAPEMUSICやceroを流しながら車に揺られていたのだけれど、最高だった。この日は月が異様に大きくて、昇りきる前の月が山間に浮かぶ姿はハリボテの偽物みたいだった。3日は特に外出はせずに再びテレビの前で過ごした。『キングちゃんSP』のフリースタイルバトル、並み居る猛者たちの中でゴッドタンからの刺客ともいうべき劇団ひとりがシンプルに狂っててやっぱり最高だった。復活するレギュラー放送も楽しみだ。『mother』を最終話まで一気に観てカラカラになるまで号泣する。女たちよ!主演の松雪泰子をはじめ俳優陣が軒並み素晴らしくて、高畑淳子の揺るぎない母親像と田中裕子の所在無さと力強さの共存する女性像に涙する。今更ながら芦田愛菜ちゃんの天才子役ぶりに心酔していたら、お正月番組でめちゃくちゃ大きく成長していてびっくりしてしまった。私だけ時間がねじれている。これで坂元裕二×田中裕子シリーズの最新作『anone』へのウォーミングアップもばっちり。先日テレビで予告を観たのだけれど、ショートヘアの広瀬すず瑛太阿部サダヲの佇まいも完璧で、否応なしに期待が高まる。あとは『スターウォーズ エピソードⅠ』を観た。4日は録画消化デー。ピース又吉脚本のドラマ『許さないという暴力について考えろ』の柴田聡子さんとてもかわいい。藤井プロデューサーの『水曜日のダウンタウンSP』と『人生逆転バトル カイジ』、人間の色々な一面が浮き彫りになっていてバラエティを観た後とは思えない後味だったな。哀しきモンスター黒川明人さんの人間性に深刻に引いてしまう反面でどこか他人事と割り切れない見栄と哀しさもあり。健気に嘘ツイートをするシーンとか泣きそうだった。タクシーの運転手への優しさとレイちゃまへの気持ち悪さがいい塩梅に編集されている…。カイジに出ていたニートチャーハンさん、モテキのときの森山未來に似ていて思わず肩入れしてしまった。

f:id:Vanity73:20180104174558j:image昔から冗談やお世辞を本気にしてしまうタイプで、歩み寄ってみると「いや、違うんだけど…」と齟齬が生じてしまうことが何度かあった。それからは全ての言葉を冗談やお世辞として受け止めて、自分から誘ったりアプローチしたりすることをしなくなった。鬱陶しいと思われるのは格好悪くてみじめだから。いままでそうして気を付けてきたのに、好きな人が優しくしてくれて浮かれてしまって、久しぶりに少しやらかしてしまった。もしかして脈あるのでは!?と思ってしまって不覚にも調子に乗った。ないない、やっぱりない。今年ものたうち回ることと思いますが、よろしくお願い致します。

平成29年年間報告

f:id:Vanity73:20171231113010j:image今年は就職が決まらないまま大学を卒業してフルタイムのアルバイトを始め、そこで知り合った人に一目惚れをした。大きく環境が変わり、俯瞰で見れば「節目」と呼ぶにふさわしい一年だ。フルタイムとはいえ非正規雇用、今後の身の振り方を考えるための猶予のつもりだったのが恋に身悶えているうちにあっという間に一年が終わろうとしている。もともと目指していた職種だったこともあり仕事内容も職場も好きなので、契約が更新できる限り続けようと思ってはいるけれど、このままで良いのだろうかという不安は常につきまとう。生活リズムも変わり、以前のようにバラエティ番組やラジオをチェックするのが難しくなってしまったこと、それらを心の支えのように思っていたけれどないならないであまり気にならないことに寂しさを覚えたりしている。しかしそれよりも今は恋である。錯乱しているのでこの記事に「恋」という項目を作ろうとして流石に止めたものの、今年のメイントピックであることに間違いはない。何を観ても何を聴いても何を読んでも意識の一部にはいつも好きな人がいて困ってしまった。まさか自分がこんなことを思う日が来るなんて思ってもみなかったけれど、恋、めちゃくちゃエンタメ。そんな酔狂な状態の私を夢中にさせた素晴らしい作品の数々で1年を振り返ります。

 

舞台

f:id:Vanity73:20171213205617j:imageジエン社、サンプル、玉田企画、シベリア少女鉄道、ナカゴー、ままごと、贅沢貧乏、東葛スポーツなど、名前は聞くけれど見たことのない劇団の作品を積極的に見に行った。中でも突出して印象に残っているのはナカゴーの鎌田順也が女優の川上友里、墨井鯨子とやっている「ほりぶん」。初演の評判を受けて見に行った『得て』が衝撃的に面白く、女たちが身体を酷使する阿鼻叫喚の最新作『牛久沼』も凄かった。すっかり大好きな劇団となったロロは3月にいつ高シリーズ一挙上演、9月に新作『BGM』、11月に『父母姉僕弟君』再演と充実していて、目覚ましい躍進ぶりにとにかく夢中だ。三浦さんの筆致がよりポップに洗練されていくのに呼応するように、俳優たちも見るたびに素晴らしい。他には岩井秀人前野健太森山未來によるコドモ発射プロジェクト『なむはむだはむ』やアブシャロム・ポラック&インバル・ピントの百鬼オペラ『羅生門』、城山羊の会『相談者たち』などが好きだった。すでに完成されたものというよりも、実験の過程を見せながら構築されていく作品の面白さが印象に残っている。

 

ドラマ

おとなの掟

今年は坂元裕二『カルテット』、岡田惠和ひよっこ』、宮藤官九郎監獄のお姫さま』とリレーのように好きな脚本家のドラマが続いてとても充実していた。中でも『カルテット』はあまりにも特別な作品で何度も見返していて、いまだに新鮮であると同時にずっと共にあったような気もする既に私のオールタイムベストだ。来年1月から始まる広瀬すず主演の『anone』、田中裕子に加えて小林聡美阿部サダヲ瑛太火野正平という最高が約束されたようなキャストでいやおうなしに期待が高まる。阿部さんはちょっと意外だったけれど、そういえば宮藤さん脚本の水田伸生の映画に出ているから納得でもある。『ひよっこ』は『あまちゃん』ぶりにハマった朝ドラで、登場人物もエピソードもひとつ残らず愛おしいというのもやはりあまちゃん以来の感触だった。市井の人々の小さな物語をお喋りで転がしていく持久力に舌を巻いた。岡田惠和は作品毎にも、作品の話の中でも少しムラのある作家という印象があるけれど、ひよっこは中だるみすら逆手にとって仕上げてきていて完璧だったな。毎日15分の楽しみがあるというだけで日々のモチベーションがまるで違うので、朝ドラはなるべく面白くあって欲しい。次は坂元裕二古沢良太にお願いしたい。『監獄のお姫さま』は毎週楽しみに観ていたけれど熱中できる程ではなく、佳作という印象が残った。どこか上滑りしている演出のチープさが気になってしまったのが大きい。それでもおばさんたちのこと大好きだし、塚本高史がずばりクドカンの男の子像のままで嬉しかった。それから、三浦直之(ロロ)が脚本、松本壮史(EMC)が監督を担当した回がとにかく瑞々しい『デリバリーお姉さん』も忘れてはならない。ロロの魅力がそのままにテレビドラマというフォーマットで発揮されていて素晴らしかった。

 

映画

お嬢さん(字幕版)

パク・チャヌク監督『お嬢さん』が圧倒的に好きで、 3月の時点で今年のマイベストワンどころか生涯ベスト級が決まってしまった。策略と裏切りの連続でどう転がっていくのかわからないミステリとしての面白さと、スッキと秀子が強く結ばれていくラブロマンスとしての面白さ。容赦ない官能とバイオレンスの映像美。中盤くらいからこれはやばい、大好きだ、やばいと思いながら観ていて、未だにその感覚が残っているくらい好きです。あまり観にいけていないけれど、ほかに映画館で観たものだと西谷弘監督『昼顔』、エドガー・ライト監督『ベイビードライバー』が好き。

At the terrace テラスにて

公開は昨年だけれども今年DVDで観た山内ケンジ監督『At the terrace』が面白すぎてそわそわした。覗き見てしまった他人の秘密を誰かに話したくて仕方ないような気分。石橋けい演じる添島夫人が明らかにおかしい人物として置かれつつ、各々の変態ぶりが炙り出されていく過程にニヤニヤが止まらない。帰りたいのになかなか帰れない人と、見るからに帰った方が良いのに帰ろうとしない人。ワンシチュエーションで空間の出入りを巧みに操るお得意の手法が映画でも面白く見れる。出演者も当然のごとく全員良い。ああ、面白い。同じく山内監督の『友だちのパパが好き』も見返したのだけれど、これまたおかしくて前に見たときより好きになった。どうやら私は山内ケンジの作品がめちゃくちゃ好みらしいと自覚する。

 

音楽

ON THE AIR

今年も相変わらずVIDEOTAPEMUSICばかり聴いていた。なんといっても10月にリリースされた『ON THE AIR』の空気や湿度のような目に見えないものを漂わせたムードは唯一無二、まだ霧のかかっている新しい世界へ進んでいくようで本当に目が離せない。今回のアルバムはサンプリングに加えてフィールドレコーディングも取り入れられていて、耳を凝らさないと聞こえない音や、それとは反対になんとなく流していてふと耳に入ってくる音が無数に混ざり合っているのでいつまでも聞いていられる。東京キネマ倶楽部でのワンマンライブに行けなかったのは本当に心残りだけれど、11月のモーションブルー横浜でのライブも素晴らしくてうっとりとした。

めたもるシティ

菊地成孔がプロデュースや作詞、ヴォーカルで参加しているけもの『めたもるシティ』もとてもよく聴いた。キッチュなサウンドや菊地成孔とのデュエットはSPANK HAPPYを彷彿とさせるのだけれどあの窒息するような甘さとはまた違っていて、青羊さんの音や言葉のひとつひとつが沢山の光を反射してつやつやに輝いているような感触がある。

ほかには柴田聡子や東郷清丸などもよく聴いた。なんとなく並べたくなるジャケット。

愛の休日

2兆円

 

 美術

大学では西洋美術史のゼミに所属していたこともあってこれまでは絵画をよく見に行っていたのだけれど、じっくりと見る体力と集中力がなかなか湧かず、インスタレーションや写真などの現代アートばかりをかじるようにちらほらと見に行っていた。 黄金町バサールとヨコハマトリエンナーレで横浜の街を歩き回ったのが楽しかったな。黄金町バザールは平日だと人がほとんどいなくて本当に入っていいのだろうか、という雰囲気だったのだけれども、おそるおそる覗き込む感じが黄金町の街のムードと同調していた。

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ヨコハマトリエンナーレ赤レンガ会場で見た宇治野宗輝の「プライウッド新地」。

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東京都庭園美術館「装飾は流転する」での山縣良和。

 

他にも色々とあった気がするのだけれど、駆け足で薄味な振り返りになってしまった。来年はもっとこまめに書き記しておこうと思う。来年はどんな面白いものが見られるだろう。沢山のものに出会いたい。

Someone that loves you

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ダウナーな気分を掻き消すように、日々はにわかに騒がしい。相変わらず好きな人のことが超好きで、どうやら現在恋人らしき存在はいなさそうなことも確認し、能天気な毎日を送っている。いないからといって私に可能性があるのか、というと口を閉ざすほかないわけですが、好きな芸能人が結婚したらなんだか残念、みたいなあの気待ちです。

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11月17日、 トーキョーアーツアンドサイト本郷にて『不純物と免疫』を鑑賞。百頭たけしの写真が面白かった。平面に切り崩される山、ソーラーパネル、石造りの屋根とトタン、蔦と打ち捨てられた給油機、整列した墓と飛行機。不純物でもあるし、都市の新陳代謝を感じる写真。さりげなく過去のものと新しく作られるものが配置された構図も良い。

f:id:Vanity73:20171119153104j:image外堀通りを歩いていたら通りがかったいたるところのデザインがシンメトリーな元町公園。雰囲気のある公園だなと思って立ち寄ってみたらステージのような段のところで若者ふたりが漫才を練習していた。

f:id:Vanity73:20171119153855j:image更に歩いていたら後楽園に辿り着いた。人もまばらな平日の遊園地はほどよく寂しい気持ちにしてくれる。

f:id:Vanity73:20171119153312j:image池袋へ移動して、以前『夜の巷を徘徊する』で訪れていた西武の屋上庭園へ登ってみた。焼却場の煙突がメインパビリオンのように遠くにそびえる。美味しそうなメニューは売り切れていたから何も食べなかったけれど、平日の夕暮れ時に食事をしたら寂しくて良さそうな場所だ。

f:id:Vanity73:20171119153129j:imageタカセ9階のラウンジで夕食にホットドッグとケーキを食べる。こってりとしたクリームのコアントローモカ。向かいの席では謎のビジネス講釈、後ろでは中国の人が日本語を教わっていて退屈しない。サンシャインシティへ移動。ショッピングモールを流す。特にアルタのあたりは、空間の広さや栄えてなさ、お店のラインナップの埼玉感(というより郊外感)がもの凄くて東京都内にいることを忘れてしまう。妙に切ない気持ちになるので、これといった用がなくてもたまに来たくなる。ブクロサイコー

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サンシャイン劇場にて河原雅彦演出『ロッキー・ホラー・ショー』を観劇。開演前の売り子たちによるグッズの押し売りから猥雑な空気を作る徹底ぶり。キッチュな舞台美術やギラギラの衣装が目に楽しい。見ている間は楽しく、満腹感を残すことに注力した演出も潔かった。小池徹平なんてコミカルすぎて途中何度か井戸田潤にしか見えなかったもんな。劇中で古田新太に「素麺か」と言われていた手足の長いアヴちゃん(女王蜂)の存在感も出色。ダンスシーンではライブパフォーマンスで培われたしなやかな動きがとにかく映える。幕間で「ヴィーナス」が流れていて、帰ってからもしばらく女王蜂を聞いている。

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11月18日、花園神社の酉の市へ。夜遊びがしてみたくなって、そういうのが得意そうな友だちに声をかけて一緒に遊んでもらった。私は普段自分から人を誘うことが苦手で殆どできないのだけど、こうして寒いなか付き合ってくれる人がいることが本当にありがたくて嬉しい。楽しくなるように私がおもてなししなくちゃいけないのに、結局ぜんぶお任せしてしまって反省している。でも楽しかったな。朝方に電車から見えた富士山は輪郭がくっきりとしてとても綺麗だった。

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お目当ての見世物小屋カッパ御殿、想像よりもずっとポップで見やすかった。前日に観た『ロッキー・ホラー・ショー』に引き続き、猥雑で浮世離れした雰囲気を味わう。デリシャスウィートス、めちゃめちゃ可愛かったな。人魚のおまめちゃんがガラス瓶を食べるのを「大丈夫ー?」と見守っていたり、夜のお店に勤めるお姉さんたちのリアクションが最高に良かった。

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11月20日、駅で前を歩く女性がお化粧品を落としたので拾って渡したら、ホームで声をかけてくれた。小物の入ったビニールが詰まったポーチを片手に「色々手作りしているからひとつどうぞ」と手作りのストラップを差し出される。話しているそばからまた別のポーチを落としていて、この人はよくものを落とすんだろうなあと思った。拾っただけなので…と遠慮したら貰ってくれたほうが嬉しいと言うのでお言葉に甘えて水引に目玉のついた可愛いストラップを貰った。他にも見せてくれたキラキラした青いストーンのついたものや、おかめのお面のマスコットとつまみ細工のストラップはとてもユニークで可愛くて、バタバタと慌ただしい女性のキャラクターと相まって不思議な嬉しさがある。

ムーンライト(字幕版)

11月23日、早稲田松竹でバリー・ジェンキンス監督『ムーンライト』を観賞。いじめやヤク中の母親などヘヴィではあるけれども淡々と描かれていて、じんわりじんわりと沁みてくる。フアンの死が直接語られない余白とか。灼けつくような瞳とブルーに輝く肌。

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横浜へ移動。何度か来ているけれど横浜駅の全貌が分からなくて、今日もなんとなく東西を頼りに地下道を歩き回って目的地へ出る。東京近郊の都市の、機能が一部分に濃縮されている感じがとても好きだ。横浜まで来たら黄金町・伊勢佐木町エリアを歩くのがお気に入りなのだけれど先月訪れたばかりなので今日はメジャー感のある横浜駅を歩いて、ベイクォーターから赤レンガ倉庫までシーバスに乗った。最初は薄暗い客席、みなとみらい停船後はデッキに座る。

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とっぷりと日も暮れて、雨上がりで寒いかと思ったけれど程よい冷気でクルージング日和だった。高いビルや観覧車、客船の明かりで空がほんのり赤く見える。赤レンガ倉庫はクリスマスマーケットの準備をしていて、設営中でもイルミネーションをバックに写真を撮る人たちが沢山いた。

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モーションブルー横浜にてVIDEOTAPEMUSIC "ON THE AIR" Release OneMan Show。「On The Air」で混線した電波の中から拾い上げられたタクシー無線で「Sultry Night Slow」へ繋ぐオープニングから早速うっとりとしてしまう。いつも土地と対バンするつもりでライブしているとMCで話していたように、窓の外に広がる横浜の海やさっきシーバスから見た景色がすべてVIDEOTAPEMUSICの音楽によって融けてゆくようだ。前作『世界各国の夜』はいつか/どこかに存在したであろう誰かの時間を感じさせるロマンがあったけれど、今作は最早どこかもいつかもより曖昧になって(異界の気配すら漂う)あらゆる景色を浮かび上がらせる魅力がある。そしてあらゆる景色にも融けていくスライムのような感触。モーションブルーという特別な空間を含めて素晴らしいライブだった。クレイジーケンバンド「おにいちゃん」鶴岡龍とマグネティックス「KIMINOKO」とまさにィ横浜な歌モノを織り交ぜたcero髙城さんのDJも最高でした。あと開演前に食べたもち豚の舌のなんか美味しいやつ、とても美味しかったです。色合いがクリスマスっぽい。

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11月24日、本多劇場にてナイロン100℃『ちょっと、まってください』を観劇。ケラさんの公演でいつも楽しみにしているオープニング、舞台美術への投影と照明、音響が渾然一体となって今回もとにかく格好良い。映像や音楽を使った演出をここまで浮かずに効果的に使えるのはケラさんくらいではないかと思う。「不条理喜劇」と予告されていた本作、ズレた会話が次の瞬間に事実のように振る舞われ、あれよあれよという間に関係が入れ替わり、奇妙な面白さだった。「ちょっと、まってください」と何度心の中で呟いたことか。実質主演と呼ぶにふさわしいマギー、素晴らしかったな。

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11月26日、六本木スーパーデラックスにて東葛スポーツ『ハウス』を観劇。ナカゴー『ていで』の好演が印象的だった金山寿甲はどんなものを作っているのか興味があったのと、宮崎吐夢光浦靖子、森本華(ロロ)という客演に惹かれて初東葛スポーツ。ミクスチャー感覚極まれり、キレの良さとタチの悪さがものすごい。この話の筋はどうなの?とも思ってしまうのだけれど、よくできたリリックでつるんと飲み込めてしまうのがなお恐ろしい。悪意ってアドレナリン出るよね。そして何より、ロロの公演でも度々披露される森本華さんのラップ、永遠に聞いていたい。森本さんの発音の強さ、太さと内容の強さがこの上なくぴったり。 f:id:Vanity73:20171130222808j:image

11月30日、三鷹市芸術文化センター星のホールにて城山羊の会『相談者たち』を観劇。徐々に客電が落ちるとジッポと煙草の火が灯り、丸い照明が薄ぼんやりと浮かび上がる冒頭から引き込まれる。山内ケンジの書く言葉尻を引っ張り合うようなイヤ〜な会話、イヤ〜なのに笑ってしまうのは登場人物がみな少しずつ狂っているからだろうか。相対的にこの場面ではまともだけど、もう一方ではおかしな人間になる薄皮一枚の狂気が面白い。気まずい状況もだるくなるすんでのところで展開していくので飽きずに見れる。あとバカみたいな感想だが言わずにはいられない、山内作品での吹越満はもれなくエロい。とにかくエロい。

 

赤坂プリンスホテル

赤坂プリンスホテル

  • 東郷 清丸
  • J-Pop
  • ¥200

東郷清丸『2兆円』の中でも「赤坂プリンスホテル」がお気に入りで毎日のように聴いている。少し掠れた声と歌詞がとても好きだ。それと関係ないけれど、すっかり街路樹も紅葉して毎日赤と黄色の葉を踏みしめているというのになぜかBONNIE PINKの「A Perfect Sky」を聴いている。私の中のふと思い出して聴きたくなる曲第1位です。砂浜でカモシカのターン 暑い夏はカーステでダンス。

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情緒・反射・積載

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毎日のように降り続いた雨と2週に渡って週末に訪れた台風が川をいっぱいに満たした。あと数ミリで氾濫するのではないかというくらい河川敷スレスレで、危うさと非日常に少し胸がどきどきとする。高い水面はいつもより近くで太陽の光や工場の灯りを反射して、ぴかぴかと輝く。それが綺麗だった10月のおわり。特に理由はないけれど、10月のことは殆ど書かないままに11月になってしまった。今年ももう、なんてこれまでもこれからも何回も言うんだろうね。

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11月2日、本多劇場にてエレキコミック第27回発表会『LEMON LIME 100% GIRL』。笑いすぎて劇場を出る頃にはぐったりしているエレキコミック恒例の現象が今回も。今回は特にパワー系というか、とにかく顔と動きとフレーズで攻めてくるコントが揃っていた。「やっつんだっつん」でのやっつんの「最高!大好き!!」というフレーズが本当に最高で、全体的なムードも明るい。最初と最後のレモンとライムを使ったアレを、芸歴20年のコンビがやってるのめちゃめちゃ格好良いし強い。最高!大好き!!

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11月3日、シアターサンモールにてロロ『父母姉僕弟君』を観劇。過去と現在も人間と動物も野球や家族の概念もとにかくしっちゃかめっちゃかで、一瞬振り落とされそうになりながらもキッド(亀島一徳)のラストシーンにガツンとやられた。あの後ろ姿と、淡々と語りながら徐々に熱を帯びていく発話が凄まじい。ロロの世界では、仙人掌(望月綾乃)のようにいつも人と人とが出会った瞬間に受け入れられて関係が出来るのがとても好きだ。出会ったばかりの人同士が、父にも母にもなってしまうマジカルはロロにしかなし得ない。そして出会ったからには別れが訪れる。でも忘れても消えていっても、それはなくならない。むちゃくちゃな「We are the world」を見ていたら、なんか全部大丈夫な気がしてくる。この作品で形成されていった家族って、知らない人同士が深く関わりあうという意味でそのまま劇団やバンド、アイドルグループの関係にトレースされるのだなと思い至る。

劇中の台詞からムーンライダーズ「Cool Dynamo,Right on」の

君に預けた 僕のハッピー

冷凍にして 持ってておくれ

そうすれば いつでも

あの頃が 戻るだろう Right on

という歌詞を思い出したりした。これはとても個人的な話なんだけれども、いま私は片想いの真っ最中で好きな人のことや会話を日記にできるだけ細かく記録していて、それはこの先忘れていくときのために残しているものだ。私の場合は関係を築く以前の話だけど、おんなじだと思った。

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『父母姉僕弟君』で号泣して感極まった状態で、好きな人を含めた数人で食事とお酒という大イベントに挑む。一杯しか飲んでいないけれど思ったよりもお酒が強かったようで少しぼうっとしてしまい、うまく言葉が出てこなくて会話が滑らかに運ばなかった。楽しみにしていたし楽しい瞬間もあったけれど結果は惨敗で、異様に悲しい気持ちに包まれた。自分がいかに人と関わるのが下手か改めて痛感してしまったのもある。これまでもめちゃくちゃ気を遣わせていたんだな、というのを感じ取ってワーッとなる。難しい。人と関わるの難しい。ちょっと疲れたな、と思ってしまった自分に悲しくなった。私には触れられない領域(それは例えば過去のこと、極私的なこと)が思った以上に広くて呆然とした。私には関係がない。私この人と何も関係なかった。それなのに、『カルテット』を毎週楽しみに見ていたと話していたことを思い出すと嬉しくて好きな気持ちが湧き上がる。今更こわくて恋人の有無も確認できていないのに。同じドラマが好き、という以上に大切なことなんて果たしてあるだろうか。

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 一晩中悲しくて、浅い眠りを繰り返した。最近打ち解けられたことは事実だけれど、それは自分の所在なさから気を遣わせていたことに思い至って、仲良くなれただなんて思い上がりを恥じる。自分の期待通りに進まなかったことに拗ねていることにも気が付いてしまって自己嫌悪に陥る。自分に関心が向かなかったことを不満に思う。なんて幼稚だろう。歳月には勝てない。そのどうしようもなさが悲しい。しかも、言わなくていいことを言って友だちを傷付けてしまった。胸のあたりに柔い圧迫感がある。この気分の落ち込みは周期的なものだと思う。誰かと関わることで得た喜びは身震いするほど大きくて、得たことで生まれる不得手或いは喪失の悲しみは身体が痺れるほどに甘い。

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11月5日、新木場スタジオコーストにてカクバリズム15周年ライブ。スカート澤部さんも角張社長も鏡開きが割れなかったオープニングにどうなることかと思ったけれど笑、超迅速な転換でとても快適に楽しめて本当に良いアーティストの揃った気持ちのいいレーベルだなと思った。2階席に座れたのでのんびりとceroまで見て、フィナーレを見ずして…という気持ちもありつつ空腹と頭痛に耐えかねて帰路につく。とても好きなスカート「回想」から始まって、浴びるように沢山の良い音楽を聞いた。TrafficやDC/PRGとの対バンで見たときはかなり気合いの入った演奏をしていた印象が強かったceroは、今日は肩の力が少し抜けたような軽やかさがあった。ニカさんで締まったので僕らは次回予告のつもりでと髙城さんが言っていて、祭りの終盤のムードに寄り添うような「街の報せ」が沁みる。

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新譜『ON THE AIR』をリリースしたばかりで期待値も高かったけれど、スタジオコーストの大きなスクリーンをバックに見るVIDEOTAPEMUSICのライブは素晴らしすぎた。最後に演奏された「Fiction Romance」では、MVに登場する社交ダンスクラブの人々がメロディを口ずさみながら踊る映像が暗転し、VIDEOさんがピアニカソロを弾き終えると大きなミラーボールが回り出して会場中を白い光が包み込む。そのあまりの美しさに息をのんだ。これは他のカクバリズムアーティストにも通ずることだと思うのだけど、聞こえてくる音や見えている映像以上の景色や世界を見せてくれる。複雑さや奥深さと、純粋な音楽の楽しさが同居していてとても好きだ。

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目がさめると昨日、一昨日まで胸を覆っていた靄が少し晴れている感覚があった。カクバリズムのおかげだ。そういえば8月も精神状態が最悪だったときにカクバリ夏祭りで回復したな。と思ったのも束の間、バイトで凡ミスを連発し頭を抱える。落ち込むよりも、やっちまったな〜!みたいなテンションが残っているので全然大丈夫だけれども、そこそこにキツい。私情で仕事に影響を及ぼす自分の甘さが一番キツい。前は調子を崩す予兆があるときは直ぐに宮藤官九郎のドラマやエレ片のラジオ、お笑い、音楽を摂取して乗り越えていたけれど、最近それすら忘れてひたすらに落ち込むことが増えた。揺るがないと思っていた自分の好きなものを忘れて、虚像を追うような恋にうつつを抜かすなんて、私としたことが。でもドラマもラジオも音楽も、すべての物語と表現は思い出せばすぐそばにあって、すぐに会える。生み出され残されるものたちに、これまでもこれからも救われ続ける。それだけは何度も思い出せる。


柴田聡子 - ぼくめつ

彼方の雨雲

f:id:Vanity73:20170917182258j:image台風が近付いているのか去っていくのか9月の雨は、ひんやりとした空気と微かな湿気を伴って夏を遠くへ連れていった。1月生まれだからか、汗かきだからか、私はめっぽう冬が好きなので涼しくなればなるほど嬉しくなるのだ。冷たい空気の中にいると背筋が伸びる。今年は真っ赤なニットのスカートに真っ白なフェルトのベレー帽を合わせたい。コートの季節が来るまでは、大判のストールを主役にする計画も立てている。ラインの美しいチェックのスカートも手に入れて、準備は万端だ。

この空の花 -長岡花火物語 (DVD通常版)

9月14日、新文芸坐大林宣彦特集にて『この空の花 長岡花火物語』を鑑賞。セミドキュメンタリーや劇中劇を織り交ぜながら、画面はよりフィクショナルで夢想的な映像で彩られている。しかし不思議なことに、戯画的であればあるほど史実が現実味を持って迫って来るのだ。この世のものではない少女たちは一輪車で自在に滑走し、いとも簡単に、ときに強引に過去と現在を繋いでしまう。戦争を知らない私たちが史実を知り想像するために最も有効なものは物語であると改めて思わされた。そして誰よりも想像力を信じ、底抜けの奇想で映画を作り上げる大林宣彦という存在の大きさもまた然り。常識や定石に縛られないどころか、それらを果敢にぶっ壊していく映像演出の数々を見ているとなんだか勇気が湧いてくる。しかし、めちゃくちゃやっているようでいて散漫にならないのは、大林監督の信念が貫かれているからだろうな。そして気持ちが良いほどに狂っている。

f:id:Vanity73:20170915212444j:imageシアターコクーンにて『百鬼オペラ「羅生門」』を観劇。アブシャロム・ポラック&インバル・ピント初体験なのでとてもわくわくして臨み、期待以上のものを浴びせられたような気分だ。言葉の追いつかない世界。真っ赤なワンピースを着た真砂(満島ひかり)が蜘蛛の糸を垂らしながら蓮の葉とともに降りてきたあの瞬間、息をするのを忘れるくらい美しかった。紛れもなく神様だと思った。オペラというだけあって音楽の担う割合も多く、ミュージシャンもしっかりと舞台の世界に溶け込んでいるのもよかった。ceroのサポートでもお馴染みの角銅真実さんがめちゃくちゃ舞台映えしてて格好良かったな。

Drape Me in Velvet

Drape Me in Velvet

  • Musette
  • ポップ
  • ¥1350

文芸坐で流れていたのをshazamで検索して、AppleMusicでダウンロードするというあまりにも現代的な方法でMusetteを聴いて眠った。大林宣彦、百鬼オペラと奇妙を巡る1日の終わりに相応しい夢見心地だ。大変今更ながらAppleMusicを導入して、あまりにも色々な音楽が聴けてしまうことに周回遅れで困惑し興奮している。今まで興味はあったけれど聴くに至らなかったジャンルとか、好きなバンドのルーツなんかを掘り下げるにはもってこいだ。それにしてもNetflix然りAppleMusic然り、ワンクリックで大量の作品にアクセスできると時間がいくらあっても足りないな。その上、テレビだって面白いものが放送されていて、新しい映画も公開されて、毎日あちこちで演劇やライブもやっていて、本だって出ていて、目が回る。この世には面白いものがありすぎる。

「ベイビー・ドライバー」オリジナル・サウンドトラック

9月18日、新宿バルト9にてエドガー・ライト監督『ベイビー・ドライバー』を鑑賞。音楽!ダンス!カーチェイス!ガンアクション!ラブ!が全部フルスロットルで最高。アルコ&ピースにラジオでオマージュして欲しい映画だった。もちろんベイビーとデボラが大好きなんだけれども、終盤のバディがちょっと困っちゃうくらい格好良かった。

f:id:Vanity73:20170918184553j:imageらんぶるでドライカレーを食べる。広々とした地下の席とシャンデリアが見渡せる階段上の席がとても良い。店員さんにシュッとしたモデルみたいな男の子が数人いて、都内の大きな喫茶店は古いところでも活気がある。コーヒーを飲みながら長嶋有の『いろんな気持ちが本当の気持ち』を読んでいたら、「片思ってしまう」というエッセイが心にぶっ刺さった。思いを寄せる人と共通の趣味を持っていることに喜ぶ、という話からこう述べる。

あたかも「両思い」に向けて、わずかでもアドバンテージを得たかに思われる。だけど本当は逆で、そのこと(自分と好きな人だけが共有するなにかがある、と知ること)は、心の中の片思いの濃度をさらに強めてしまう。それは心地のいい陶酔だ。心地よさを大事にするあまり、恋を現実にするための手練手管をうてなくなってしまうのではないか。臆病さとは別の能動的な「欲求」として片思いはじめる。

わかりすぎてしまう。まったくもってその通りの現象が私の身にも起こっている。

f:id:Vanity73:20170918192532j:imageザ・スズナリにてロロ『BGM』を観劇。何を隠そうこの日のテーマは「車」と「音楽」である。内容は関係ないけれど、ごきげん気分で映画と演劇のハシゴに大成功。見ている間も見終えた後もとにかく胸がいっぱいで、ロロが大好きだなあと思った。キャラクターもモチーフもエピソードもひとつ残らず愛おしくって、この世界がもし映画や漫画でも表現されていたら何度も何度も繰り返し観ると思う。でも演劇は上演されている間、その時間しか観ることができなくて、次第に私たちのなかの記憶になっていく。超人でもなければ丸々覚えておくなんてことはできないから、それは印象的な台詞だったりシーンだったり、曲だったりダンスだったり、もっと断片的な、ミラーボールの光だったり、役者の表情だったりが記憶される。観た人すべての中にそれぞれの『BGM』が蓄積されていて、ずっと光り続けるだろうな、と思った。それは記憶を辿る旅のようなものでもある。

f:id:Vanity73:20170924151318j:image9月21日、Kanzan Galleryにて飯岡幸子展「永い風景」を観賞。夜の道路の写真に心を惹かれて見に行った。直感的に好きな写真だ。留めておきたいけれどするりと記憶の隙間から溢れてしまうような、はっきりとした形で記憶しておくのが難しい何気ない風景が切り取られていると感動してしまう。知らない場所のはずなのに、間違いなく私はこの風景を知っている。

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KanzanGalleryでポストカードを見て気になったアートラボアキバでの諸星春那  個展「DEAF HOOD+ そう遠くはない未来~in the near future~」にも立ち寄る。概要も何も知らずにふらりと入ると、コンクリートの壁に子どもや花の写った写真や抽象画のようなものが投射されている。ガシャン、ガシャンとアナログな音を立てて回転するスライドプロジェクターをぼうっと眺めていると、諸星さんが筆談で話しかけてくれた。ループする過去・現在・未来をコンセプトにしていることや、ポストカードにもなっている写真は諸星さんが2歳の頃のものであること、ろう学校や手話のことなどを教えてもらう。パステルなどで色をつけて自分でフィルムを作ることができて、その来場者が作ったもの=未来と捉えて一緒にスライドで投影してテーマを表現していた。ので、私も作って投影してもらって一緒に見た。ポストカードの色味に惹かれたのと、ちょうど通り道に会場があったので立ち寄ってみたら思いがけず面白い出会いがあってなんだかとても嬉しい気分だ。

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淡路町の珈琲ショパンでホットサンドとカフェオレ。思いの外時間がなくてあまりのんびりできなかったのだけれど、薄暗くて静かな店内がとても心地よい。初台まで移動して、新国立劇場小劇場にてケラリーノ・サンドロヴィッチ演出『ワーニャ伯父さん』を観劇。先に戯曲を読んでおこうと思いつつ途中で頓挫したまま観劇したのだけど、ここ笑うところだったのか!と観てはじめてわかるシーンが多かった。ケラさんのウィットに富んだ演出も効いていたのだろう。2幕でトーンが加速して、再び下降していく物悲しさがいつまでも胸でくすぶる。舞台ではじめて拝見した段田安則、ワーニャ伯父さんの偏屈な台詞を淀みなくつらつらと発話していてあまりの滑舌の良さに魅了された。巧い、と感じさせる隙もないほどに巧い…。あと、アーストロフ(横田栄司)に恋をするソーニャ(黒木華)の姿がまんま私で胸が痛くなった。会話を交わして握手をしただけで「どうしてこんなに胸が弾むのかしら!」と飛び上がったり、たまらず家中の人に自分の気持ちを言って回ったり、舞い上がる一方で冷静に自分の容姿を省みて落胆する姿が痛々しくて可愛らしくてたまらない。わかる、わかるよソーニャ。

f:id:Vanity73:20170924185014j:image先日、目下片想い中の好きな人とお休みの日に会うという大イベントが発生して、その日は1日夢心地の楽しさだった。もちろん2人きりではなくて、とても信頼かつ尊敬している人たちと一緒に過ごせたのもとても嬉しかった。この9月は、数ヶ月前には想像もしなかったことが起こっていて恐ろしくなるくらい楽しい。4月の日記に「一生親しくなれる気がしない」と書いていた人と、ひよっこの話をしたりできるようになるなんて、夢のようだ。年齢も性別も分け隔てなく接してくれる人々とともにいる今が、どれだけ幸せなのか考えても考えても追いつかないくらい。だから、あまり下手なこともできないな、と思います。


愛して愛して愛しちゃったのよ (cover) / 柴田聡子

ひよっこ』に出てくる「愛して愛して愛しちゃったのよ」が聞きたくて検索していたら柴田聡子がカバーしているライブ映像が出てきた。とても良い。オリジナル(和田弘とマヒナスターズ&田代美代子)も好きだけれど、柴田さんが歌うとなんだかグッと私たちのうたという感じがする。そう、愛しちゃったのよ。

恋のうた

恋のうた

劇中でよく流れる♪だって君が好き〜という曲、てっきり歌謡曲かと思っていたらオリジナルの「恋のうた」という曲で歌っているのは太田裕美なんですね。好きすぎて、今の気分にぴったりすぎて、iTunesで購入して繰り返し聴いています。自分の言葉で好きと繰り返すと気持ち悪くなってしまうのに、こんな風に素敵な音楽に託されると途端にハッピーになる。歌詞を書き起こしてみるとちょっと狂気じみちゃうけれど。すき。

すきすきすきすき

すきすてきすき

すきすきときめく 甘い恋のうた

この気持ちがいつまでも続かないことも、憧れにしておくはずだったこの恋が実る可能性が限りなくゼロに近いことも知っている。あと何年か経てば、どうしてこんなに胸を焦がしていたのかもわからなくなるだろうし、好きな人の顔や声の記憶も霞のように薄れてしまうだろう。それでもこの人が好きだった、ということはきっと覚えていると思う。こんなに身近な誰かを好きになったこといままでなかったし、それを友だちに延々と聞いてもらって言葉を貰うのもはじめてのことだし、どうしようもなく楽しい。はたからみれば普通の会話が、私にとってはすべて宝物のような記憶で、なんて幸せだろうと思う。どうしてこんなに切ないのだろうと考えると、この楽しい日々が必ず終わることがわかっているからだ。この日々が続いて欲しい、このまま時間が止まって欲しいという望みは、私の恋心が成就するよりずっと無理なお願いだから。季節はいやおうなしに過ぎるから、少しずつ覚悟を固める。恋の季節を見送る覚悟。 

映画『散歩する侵略者』オリジナル・サウンドトラック

9月28日、池袋シネリーブルにて黒沢清監督『散歩する侵略者』を鑑賞。人の顔を覆う不自然なまでに深い陰を見ると、ああ黒沢清の映画だなあと思う。宇宙人の立花あきら(恒松祐里)が血まみれで道を歩く後ろでトラックが横転するタイトルバックめちゃくちゃ格好良かったなあ。トーンがシリアスだからつい身構えてしまうけれど、宇宙人の佇まいをはじめとして全体的にすっとぼけている空気が面白かった。 

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シアターイーストにて贅沢貧乏『フィクション・シティー』を観劇。贅沢貧乏は前々から気になっていて、チラシやHP、アフタートーク高橋源一郎、岸政彦というセンスを信じて初挑戦。冒頭、階段状のセットをひとつのペットボトルが転がり乾いた音を響かせた瞬間に惹き込まれた。それぞれのシーンの要素が地層のように堆積していき、混沌とした景色が生み出されていく。物語から弾き出された役名を持たない男が「この物語から離脱します!」と声をあげると、非常誘導灯、客電が点灯し、会場を飛び出す。ステージにシアターイーストから池袋の街へ出る景色が投影されるラストシーンがとても印象深い。「フィクションとは私たちにとって何か」という永遠の命題をめぐる作品は、まだプロットのような印象が拭えなかったけれど、このテーマに関してはこれが正解なのだと思う。

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久々に友人とLINEでやりとりをしていて、何ターン目かで別の友人と思い込んでいたことに気付く。2人とも一緒に集まる共通の友人ではあるのだけれど、アイコンも名前もまったく似ていない。会話には何も支障がなかったけれど、疲れているんだなあと思った。今日はアラームが全く聞こえなくて寝坊した。月末はいつも決まって調子が悪いので少し気を付けながら耐える。耐える、というほど辛いわけでもないけれど、身体を強張らせながら波に揺られるような感覚がある。

連続テレビ小説 ひよっこ 完全版 ブルーレイ BOX2 [Blu-ray]

9月30日、『ひよっこ』が最終回を迎えた。奥茨城から乙女寮、すずふり亭と舞台が移り変わるにつれて、このドラマはお喋りがテーマなのだなあと思わされた。家族のこと、友だちのこと、仕事のこと、恋のこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、悩み事etc...すべてがお喋りや手紙によって共有されて、離れた場所にいる人と人を繋いでいく。相手のことを知ること、自分のことを話すこと、というコミュニケーションの原始的な部分がとても丁寧に、チャーミングに描かれていて、見ていると誰かとお喋りをしたくなったし、私も彼女たちとお喋りをしているような気分になれてとても楽しかった。人と関わることは素敵なことなのだと、そっと肩を叩いてくれるような優しさ。『あまちゃん』と同じく、主人公が大成する朝ドラの定石からは逸脱したもので、キャラクターたちが今もどこかで生きているという感触の大きいドラマだった。最終週になってふと、「2017年には何歳かあ」という会話が登場してはっとした。『ひよっこ』は終わらないのだ。