ニュースクラップタウン

私事で恐縮です。

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f:id:Vanity73:20180216013104j:image毎年忘れてしまうけれどそういえば2月がいちばん寒いのだ、と覚悟していたのに中旬の数日は穏やかな陽射しの日が続いて、空気もそこまで冷たくない。心なしか花粉がすぐそこまで迫っているような気配すらある。自分のブログを読み返していたら昨年の春に気になる人が花粉症と言っていたけれど緊張して会話のチャンスを逃したと書いてあった。それから早いもので半年、下手したら1年が経とうとしているけれど、気になる人は死ぬほど好きな人になっているし、今は楽しくおしゃべりも身の上話もできるようになっているよ、と過去の私に教えてあげたい。現状としては、あれ?付き合ってんの?みたいな距離感や会話もあるのだけれど、むしろ何も意識していないゆえのこの距離感?と思う場面もあり、でもこれでそんなつもりはなかったとか言われたら立ち直れないんですけど?という感じです。なにせ惚れてしまっているものだから、すべての言葉を真に受けてしまう。こんな風にセンチメンタルに言葉を連ねて、少しずつ物語にしてしまわないと正気を保てない。当たり前だけれど、目の前にいる瞬間がいちばん好きで、反射的に好きと思う。仕事中に話しているときとか、カウンター席で並んでご飯を食べたときの横顔とか。大人は告白なんてしません、とカルテットの有朱ちゃんも言っていたし、いまはペットボトル何本分の距離かもわからないけれど、まだまだのたうちまわるつもりだ。

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luteのInstagramストーリーで配信されたドラマ『それでも告白するみどりちゃん』全8話が終わってしまった。1週間、毎日楽しみがある感覚は朝ドラに近いものがあったなあと思う。24時間で消えてしまうので見返すことができないのが少しもどかしいけれど、みどりちゃんの谷口くんへの想いは日々更新されているのだと思うと当然のことのような気もする。再放送もされたが、これもまた消えてしまうと思うとなんだか覚えておかなくては、残さなければという意識が働いて好きな台詞をメモしたり熱心に見た。台詞を書き起こしてみると、句読点の使い方やそれを的確に発話する俳優たちの素晴らしさがよくわかる。みどりちゃんを見守るくらっちや谷口くんの視点の回が挟まるのも良くて、3人のことすっかり大好きだ。最終話でついにみどりちゃんが「谷口くんが好き」と言葉にしたのに対して「え?早瀬さん僕のこと好きなの?」と返す谷口くん、ボンクラにも程があって愛おしすぎるぜ。「隣で‼︎ロングシュート決めたら大作戦」でのくらっちのモノローグも大好き。

(私は谷口くんが好きなみどりちゃんが好きだ。不細工なフォームで、不細工なシュートを放つみどりちゃんは、美しい。

誰かを好きな顔があんなに魅力的なら、みどりちゃんが好きな今の私の顔も、少しは明るくなってたらいいな。)

『デリバリーお姉さんNEO』『それでも告白するみどりちゃん』を経て、いつ高シリーズの新作がとても楽しみだ。もちろんそれだけではないですけれど、青春ものの未来は三浦直之の手に託されたといっても過言ではない。 

鳩の撃退法 上 (小学館文庫)

鳩の撃退法 上 (小学館文庫)

 

書評家の豊崎由美さんが「『カルテット』が好きだった人、絶対楽しめますから、是非読んでみてください。」とツイートしていていてもたってもいられずまんまと手に取った佐藤正午の『鳩の撃退法』を読み終えた。めちゃくちゃ面白かった。小説家の津田伸一を主人公に彼が体験したことを脚色しながら小説の中で小説を書くという入れ子構造なので、ぼうっとしているとどこが事実でどこがつくり話なのかわからなくなってしまうのだけれど、いやそもそもこれ全部フィクションだし!とまんまと術中にはまってしまった。この津田伸一のキャラクター造形がとても良くて、どうでもいいことにこだわる台詞や本筋と関係ありそうでない些細なモチーフの連なりは確かに坂元裕二と共通する部分がある。鳩の撃退法を読み終えたあたりで、『anone』でも瑛太が動き出したのでにわかに偽札づいている。

偽札から話は変わるけれど、5話での彦星くんがハリカの働くパン屋でポイントカードを作る夢の挿話が好きだ。いつ死ぬかもわからない難病で「明日の話はしないでください」と言った彦星くんが明日を意識するきっかけをポイントカードに託してしまう。ポイントカードといえば朗読劇『カラシニコフ不倫海峡』にも登場するし、身近な取るに足らないものから人の暮らしを浮かび上がらせた『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』7話のレシートを思い出したりした。あと、『woman』で本筋とは関係のないシーンなのだけれど、病院で即日入院してくださいと告げられた女性がTSUTAYAの袋を持って「これ、帰りに返そうと思ってたのに…」と言うシーンも思い出した。これらと比べるとanoneはちょっとあざといかなとも感じるけれど、ポイントカード、レシート、レンタルビデオ…大仰な言葉よりも雄弁に、連続する日常の切実さを描く筆致にやはり感動してしまう。

f:id:Vanity73:20180222214514j:image2月は『近松心中物語』、ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』、カオルノグチ現代演技 第一技『演劇部のキャリー』、『テアトロコントvol.25』を観た。『近松心中物語』、この2人がカップルならば!と観劇の決め手となった小池栄子池田成志が予想以上に素晴らしく。忠兵衛と梅川、与兵衛とお亀のどちらも惹かれ合う過程は省いて当たり前のようにお互いを愛し合っているのが、理屈じゃないという感じでとても良かった。潔いほどベタなものは普段は敬遠しがちだけれどいざ見たら面白いもので、大きな劇場ならではの奥行きを使ったラストシーンも美しかった。

本公演を観るのはやや久しぶりな気がするハイバイ、扱うテーマは決して軽くないし観ている間も自身を省みて辛くなるけれど必ず足を運んでいる。自己と他者、社会、人生といくらでもアカデミックになりそうなテーマをさらっと見せられて、気付かないうちに揺さぶられている。観た人の各々の体験や感情がじわじわと湧き出して、私演劇がさらなる私演劇を生みそうな力がある。引きこもりの経験はないけれど、私は新卒で非正規雇用という「このままでは良くない」と思わざるを得ない状態にあるので、なんとか外に出れば、状況を変えればという焦るような縋るような気持ちが少なからずわかる。しかし、一方でこれが間違っているのか、私を捉える正しさとは何かわからない。外に出ることが幸せか、これもきっと一生わからない。けど「人生っぽいこと」を諦めきれないだろう。あといつも役者が1人残らず良い。藤谷理子さん、とても好きです。

『演劇部のキャリー』、入江雅人の作演出を観るのは『デスペラード』ぶりで、まさにこの作品で邂逅した野口かおるとオクイシュージの因縁対決を見届けなければというお気持ちで。演劇に対する愛と恥が何周かして、衒いも捨てていて謎の感動がある。演劇の恥ずかしい感じを敢えてあんなにストレートにやられると、もう参りましたという感じだ。野口かおるはやっぱりすごい。

テアトロコントは城山羊の会を目当てに初めて足を運んだ。犬の心、わっしょいハウスラバーガールも面白くて満足。城山羊の会は「つばめ」「婚約者」の衝撃的な短編2本。巧みに作られる気まずい空気自体にはどこか身に覚えがあるのに、出てくる人がだいたい狂っててやはり独特だなあと思う。

f:id:Vanity73:20180222222846j:image下北沢で観劇前に豪徳寺まで足を伸ばしてバレアリック飲食店でご飯を食べる。VIDEOTAPEMUSICをきっかけに知ったお店なので本当はDJをする日などに行ければいいのだけどなかなか都合がつかなくて、下北沢なら直ぐだしと立ち寄ってみた。ら、店内BGMで『ON THE AIR』が流れてきて最高の空間だった。お隣の和菓子屋さんまほろ堂蒼月も素敵だし、駅周辺には昔からある商店と新しい小さなお店が共存していて面白い街だった。のどかだけれと、ふと路地に目を向けるとやっているのかわからない妖しい酒場や惣菜屋、風呂屋あって魔界の入り口みたいな場所がいくつかある。暖かくなったらこのあたりを散歩するのも良いな。

f:id:Vanity73:20180224182349j:image朝、最寄りの沿線が人身事故で遅延していたのでルートを変えて通勤した。土曜日ということもありそこまで混雑していなくて助かった。普段は地下鉄で外が見えないのでJRの車窓を朝に見るのは新鮮な気持ちだ。埼京線が埼玉から東京を渡るグラデーションはどこからが東京かわからなくて面白い。電車が遅延して、今日のようにルートを変えるとなんだか特別なことが起こったような気がして誰かに話したくなるのだけれど、特な大変だった訳でも何か事件があった訳でもないので結局誰にも話さないで終わる。こういうとき、インターネットはうってつけの場所だ。誰かに言いたい、相手は問わず何か応えが欲しい訳でもない言いたいだけのことが書ける。誰でもない誰かに向けているからこそ書ける。その逆も然り、主張のない散文のような日記のようなブログが好きで、見つけると嬉しくなる。わたしたちは少しずつおんなじで、少しずつちがっている。何も知らないけれど、たしかに知っているひとが、今日も生活しているというだけで、充分ではないかという気すらする。