ニュースクラップタウン

私事で恐縮です。

向かいのホームの電気が消えて

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お盆休みに突入したのを機に、NetflixTSUTAYA DISCASを導入した。未知の映画を求めて検索していた筈が、気付くと観たことのあるお気に入りの映画ばかりマイリストに入れているのは私だけでしょうか。『人のセックスを笑うな』とか『横道世之介』とか『愛の新世界』とかあると観たくなっちゃう。これで『水曜どうでしょう』のシリーズが揃ったらいよいよどうなってしまうのか。そんな誘惑に打ち勝ち観た作品。

【早期購入特典あり】LOVE(劇場版B2ポスター付き) [Blu-ray]

ギャスパー・ノエ監督『LOVE』。慈愛のこもった行為と欲望による行為が異なる描かれ方をしつつ、その境界がスレスレのところで融けあいそうになるスリルがある。愛のある/ないセックスとよく言うけれど、愛が性へと導くのか、性が愛を生むのか(ときに人の形を伴って)、愛とは性とはと延々考える羽目になった。胸を締めつける愛おしき気持ちと、身体の芯をジンとうずかせる劣情は、限りなく近い場所で私たちを狂わせる。ときに手を組み、ときに対岸に立ち。不可分だからややこしいのだ。明滅、ハートマークを模したキスシーン、ラストシーンで流れるエリック・サティ『グノシエンヌ第1番』など、べったりと脳裏に焼きつく映像も後を引く。見所のひとつであろう精液のシーンは確かに3Dで観てみたい。ときに、私は安部公房が『砂の女』で用いた〈白子の打ち上げ花火〉という表現が大層お気に入りなのですが、きっと映像になるとこんな風なのでしょう。打ち上がり、残滓が火花を散らして下降する。下から見るか?横から見るか?冗談はさておき、カップルの親密さの生々しい写し取り方は毛色はまったく違えど井口奈己監督『人のセックスを笑うな』と通ずる凄まじさがある。『LOVE』のテーマもまさに「人のセックスを笑うな」ということなのでは?という気付き。ちょっと違うか。あと、息子の名前がギャスパーでエレクトラの元カレがノエっていうのは何かあるのだろうか。

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宮藤官九郎脚本『コワイ童話 親ゆび姫』。若かりし栗山千明高橋一生矢沢心皆川猿時だけでお腹いっぱいになるな。高橋一生に想いを寄せるあまりに薬で彼を小さくして思い通りにしようとどんどんサイコと化す栗山千明のお話。めちゃめちゃ面白い訳ではないけれど、後半に出てくる自ら望んで小さくなったおじさんたちに宮藤官九郎を感じた。それから、相手への想いが空回って斜め上に飛んでいってしまう感じも昨今の作品と通づるものがある。『我輩は主婦である』でもそっくりな格好をさせられていましたが、昔の高橋一生は笑うとニヤケているときの宮藤官九郎に本当に似ている。

正しい相対性理論

正しい相対性理論

 

なぜか近くの市立図書館に所蔵されているのを見つけ借りてきた『正しい相対性理論』を聴いた。菊地成孔SPANK HAPPY名義で参加しているのにずっと聞かず仕舞いでいたのだった。わたしは菊地成孔のボーカルが大好きなので無条件に愛でてしまう。高校生のころによく聴いていたので、少しの懐かしさも手伝ってかとても面白いアルバムに聴こえる。

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8月15日から両親と祖母と2泊3日の小旅行。那須に宿泊して周辺を見て回る、旅行と呼ぶには張りのないお出かけだ。車移動なので本を数冊と『ストレンジャー・シングス』『ラブ』をダウンロードして準備万端。

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餃子を食べに宇都宮へ立ち寄る。当然みんみんをはじめとした有名店は軒並み行列なので、その近くで唯一空いていたお店に入る。予想通りのシケた昼食と思いつつ店を見渡すと、いたるところにE.YAZAWAの文字。カウンターにE.YAZAWA。お手洗いの扉も電源カバーもE.YAZAWA。なのに店内BGMは中島みゆき。テレビも点いていて音が混ざり合っている。静かなる混沌。思いがけずテンションがあがる。餃子も美味しくいただいた。

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商店街の店先のベンチに祖母と座っていたら、通りすがりの小柄で妙齢の女性がコップに浸けてある植物を見て「これ水に浸けておくだけで沢山根が伸びるのよね。こんなに大きくなる。」と話しかけてきた。「へえ〜そうなんですね」と相槌を打ち、隣に腰をかけるだろうかとうかがっているとそのまま歩き去っていった。まぼろしだったかもしれない。

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宇都宮は、駅前に商業施設、商店街、脇道に飲み屋と風俗店がぎゅっと揃う地方都市ならではの風景でとても見所が多かった。古い建物も沢山残っていて良い街だ。商店街を脇に入るとPaul Smithがあったり、古い時計屋の上にAngelic Prettyがあったり、アニメ系のお店が固まっていたり、色々な文化が混在していて面白い。

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那須高原の宿泊地は電波も弱く特に観たいテレビ番組もないので、読書とNetflix鑑賞にはもってこいの環境だった。家にいるよりも集中できるような気がして、こういう風に読書や映画鑑賞のためにのんびりと外泊するのもよいかもしれない。『旅猿』でたまにやっている海外ドラマ夜通し耐久旅行みたいなね。友だちとお勧めのドラマや映画を持ち寄って観るのも楽しそうだ。しかし、森に囲まれた環境で観るには『ストレンジャー・シングス』はマッチしすぎて怖くなりそうだったのでやめておいた。ビビりな上に直ぐに影響されるので、サメの映画を見るとお風呂やプールが未だにこわくなる。その上いつもと環境が変わると上手に寝付けないので、イヤホンでナイツの漫才を聞きながら眠った。 旅行中は本を2冊読んだ。車でも宿でも直ぐに眠たくなってしまって、思ったよりも進まなかったな。

水やりはいつも深夜だけど (角川文庫)

水やりはいつも深夜だけど (角川文庫)

 

窪美澄『水やりはいつも深夜だけど』。家族にまつわる短編集。日々の暮らしのなかで、自分の中にだけ留めている後ろ暗い感情が淡々と炙りだされる。閉塞感、見栄、嫉妬、差別感情…想起することとそれを口に出すことの間には大きな大きな川が流れているとはいえ、それを抱え続けるにも限度がある。そういったものをぶつけてもいいのではないか、受け入れてくれるのではないかと思ってしまう関係性が夫婦や親子というもので、だから一緒にいるのか、だから離れてしまうのかわからないけれど。それと同じくらい家族だから受け入れられないこともあって。それでも私たちは関わりあうことを諦めない。そういう繊細で複雑な機微がとてもシンプルに描かれていて、色々なことを考える余白があるのも良い。

週末カミング (角川文庫)

週末カミング (角川文庫)

 

柴崎友香『週末カミング』。何かが起こったような、何も起こっていないような週末に関する短編集。気候や体調などの描写と、それに伴う感覚の描き方が巧みでするすると引き込まれていく。街の風景などの外的要因と感情の描き方の距離感がとても心地がいい。押し付けがましさがなくて、主人公たちはいつも外縁から世界を眺めているような人が多い印象を受ける。「地上のパーティー」での一節が象徴的だ。

おれは、この世界で生きてる、と思った。いろんな人が勝手にいろんなことをやって、地球は勝手に回転して夜が来て、今日が終わっていく。この世界に、そのばらばらのものたちと同時に存在している。

雲の上から見たら、地上の全体がパーティー会場みたいに見えるかもしれない。一つの場所に集まってるけど、みんなてんでに勝手なことを考えてる。おれもその中の、一つの点だ。なんかおもしろかった。

柴崎友香の小説の温度感と距離感がいつも好きだ。あと、「ここからは遠い場所」の河野さんは頭の中で会話を想像する癖があって、私もよくやるのでシンパシー。

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2日目は母の希望で福島県会津へ。昼食に名物らしいソースカツ丼を食べた。福島といえば、もてスリムによるロロ『BGM』フィールドワークレポートにも登場する。

水を飲んでカツ丼を待っている間、ふと気付いたことがあった。「もしや、三浦さんが頼んだ煮込みカツ丼とは、ただのカツ丼なのではないか……?」。口に出すかどうか迷っているうちにそれぞれのカツ丼が到着する。三浦さんの目の前に置かれたのは、やはりただのカツ丼だった。「やっちまったー……」「煮込みカツ丼ていうから、なんか味噌煮込み的なのをイメージしてた」「でも、考えてみたらいわゆるカツ丼って煮込みカツ丼のことですよね」。ソースカツ丼で知られる店を訪れて普通のカツ丼を食べる三浦直之。端から見ると「通」っぽいセレクトに見えるが、三浦さんの表情は暗い。

このくだりがすごく好きです。愛おしすぎる。『BGM』への期待も日に日に高まっています。

note.mu

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昭和なつかし館に立ち寄る。1階が雑貨屋、2階が昭和の街並みを再現したスペースで、こういうスポットはどこにでもあるといえばあるのだけど、否応なしに吸い寄せられてしまう。東京タワーとはとバスのパンフレット、板橋ヘルスセンターのポストカードセットを購入しました。良い買い物をした。高度経済成長期に華やいだ東京の街や文化に情景を抱きながらも、現在オリンピックを目前に変わりゆく東京を歓迎する気分にはなれない。時代や情況が違うのは当然なのだけど、もしもわたしが過去に生まれたとして当時の変化に魅力は感じただろうか。まあ、そんな理屈を抜きにして当時のデザインにときめく気持ちは変わらないのだけれど。

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旅の間は満腹中枢と金銭感覚が完全に馬鹿になるので、猪苗代で馬鹿などら焼き350円を買って車で食べた。ご覧の通りのあんこの味がしました。

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最終日は私のリクエストで東武ワールドスクエアへ。小雨が降っていたし入場料も決して安くはないので止めようかともなったのだけれど、折角ここまで来たからと入場。東京駅や羽田空港、新緑川駅など近現代のミニチュアにひとり興奮している一方で、両親や祖母はお城や宮殿などの世界遺産をなかなか楽しめたようで安心した。もっとテーマパーク的なものを想像していたのだけど、ひたすらにミニチュアでストイックさすら感じた。スカイツリーの周辺でも車の車種がすこし古くて、製作者の趣味を感じ取ることができたのもよい。

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こちらも私のリクエストで、メヒコ フラミンゴ館つくば店で夕食。前日に郡山店を通りがかったのだけれども夕飯には時間が早く悔しかったので、うれしさ倍増。書き割りのようなエキゾチズム。たまらない。一生分、じっくりとフラミンゴを見た。見れば見るほど不思議な足だ。羽を広げると筋肉のような赤い羽根が見え隠れして一瞬ギョッとしてしまう。興奮して同じような写真を何枚も撮ってしまった。

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myplanet2017.amebaownd.com

8月18日、三鷹市芸術文化センター 星のホールにてままごと『わたしの星』を観劇。スピカを探すシーンで涙がこぼれ、そこからは感動でずっとぷるぷる震えていた。出演者自身の演奏にのせてそれぞれのシーンが交差しループしながら進んでいく完成度と運動そのものの美しさに胸を打たれてしまう。最後にスピカが全員に転校を告げるシーンはおそらく彼らの中には存在しなかった時間なのだけれども、いままさに私たちの前で演じられてそのシーンが確かに存在しているという、演劇の儚さと力強さを目の当たりにした。うまく言葉にできない。照明演出も美しかったし、ミュージカルの練習シーンも素晴らしかった。キャスト全員が本当に魅力的で、中でも私はタイちゃんが可愛くて仕方なかった。タイちゃんがバランスボールを手にヒビラナに告げる台詞のなんと力強いことか。新鮮な驚きのある内容ではないけれど、台詞やダンス、動きのひとつひとつがとにかく瑞々しい。

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中央線沿線にくると目的地だけではなんだか勿体無い気がするので、三鷹から隣駅の武蔵境まで歩いて武蔵野プレイスへ立ち寄った。建物全体がなめらかな曲線で構成されていてわくわくする。近くにこんな図書館があったら毎日通ってしまうな。その後、国立へはじめて降り立つ。広々とした大学通りと建物がぎゅっと詰まった駅前の通りがよいコントラストだ。

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ロージナ茶房でビーフストロガノフとアイスコーヒーを召す。今日の大学通りには夏の日差しも学生たちの笑い声もなかったけれどSummer Soul。


cero / Summer Soul【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

  

わが星「OUR PLANET [DVD]

わが星「OUR PLANET [DVD]

 

『わたしの星』観劇後に購入した『わが星』のDVDを観た。名作としてとにかく名前を聞くのに未見だったのだ。口ロロ「00:00:00」はずっと聞いている曲なのでとても耳馴染みが良い。口語とラップがシンクロしていく様や、回るという運動とループにぐんぐん巻き込まれていくような心地良さ。作品の中で言葉が完成されているので、なかなか感想を綴るのは難しいけれどこの先何度も見返したくなるだろうと思う。

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夕方ごろ、大きな音で雷がなって雨が降り出した。東京には雹が降ったらしい。「轟く」とはこういうことだと言わんばかりに轟く雷鳴。いかにも夏の終わりのような雨だ、と思ったところで、いつも夏ばかり始まりと終わりを意識していることに気付く。私が他の季節の変わり目に鈍感なのか、夏に伴うイメージに憧憬を抱きすぎているのか定かではないけれど、そんなことはないかしら。夏の終わりというタイトルやテーマって多くないかしら。夏はいつもいつも惜しまれている。惜しまれるために待たれ、去るために訪れるようだ。お盆休みの最終日は髪を切ってマニキュアを落とした。

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宮藤官九郎脚本『悪いオンナ 占っちゃうぞ』を観た。メンヘラ気質の美少女という点でも『親ゆび姫』とテイストが似ていて、演出や主題歌にIWGPあたりの懐かしさを感じる。これもめちゃめちゃ面白いわけではないのだけれど、高田聖子が魅力的で見ていられる。あと若かりし河原雅彦宮藤官九郎がめちゃ可愛い。クドカンとまちゃぴこですね。

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8月20日18時44分、胸のあたりがどんよりと重たく気分が沈む。周期的なもので少し経てば回復することはわかりつつもそれなりにきつい。こうなる度に、私の好きなもの(演劇、テレビ、ドラマ、音楽、ラジオ、本、お洋服)をひとつひとつ確認して心の中で言い聞かせるのだけど、結局私は何も好きじゃないのではないかという結論に至ってしまう。幾度となく救われた。でも、愛すべきポップカルチャーを、たかが私の慰みものにはしたくない。それでも、私が愛しているのはつまるところ私だけ、という醜い事実がどこまでも着いてくる。そして、私を愛するのは私だけ。ああ、でも、愛しているよ。来週は『ゴッドタン』ゴールデンスペシャルだ。

 


あだち麗三郎 - フラミンゴの翔ぶところ