つかの間の無職もひと月が過ぎ、残すところあと半月となった。家が決まり、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビ、ベッドなど大きな必需品も徐々に決まり、家具の中心となるダイニングテーブルも気に入るものが見つかった。転出届も、ガス、水道の手続きも済ませ、入居日まであと１週間。選択肢が多すぎていちばんの難関であるインターネットと電力会社を決めかねている。必要最低限でいいと思っているものの、調べれば調べるほど同じ商品が違うプラン、オプション、料金でたくさん出てきてまんまと惑わされている。やたらと安いと、何か裏があるに違いないと思ってしまうものの、プランを読み込んで理解するほどの胆力がなく、検索すればするほどわからなくなる。昔から損得勘定が苦手で面倒になってしまうのだけれど、自分の「損をしたくない」という感情にいちばん疲れてしまう。
毎日何かしらの用事を作って楽しく過ごしてきたのだが、早く決めなければいけないタスクが億劫で気持ちが少しどんよりしている。引っ越しと新しい仕事のはじまりがいよいよ現実的に目の前に迫ってきて少しずつ緊張感が高まっているせいもあるのか、ここ数日間は何もする気が起きずにNetflixでひたすら『孤独のグルメ』を流し見している。本当に何気ない町の風景が写っているところに妙に癒され、気持ちが一切揺らされない安心感がいい。松重さんの演技の主張のなさがなんと心地の良いことか。あとは気が付いたら『プール』『かもめ食堂』『めがね』を立て続けに見ていて、物事を無理に決めないこと、旅を終わらせないこと、感情の起伏を過剰にクローズアップしないことを自分が求めていることが手に取るようにわかる。それから抜けるような海の景色、夏の夕暮れの風。
４月からの仕事に向けて勉強しておいたほうがいいかもしれないと思いつつ、いまいち身が入らない。いくら知識を詰め込んだところで、やはり現場で働きながら習得するしかない、そちらのほうが身に付きやすいことも多い。転職活動をしていた１０月ごろは前職が暇を極めていて、どうせ仕事に行くのなら働きたい！という気持ちでいたのだが、退職して１か月、自由にストレスのない生活をしていたら当然だがそんな気持ちはどこかへ消え去った。家にいる時間が増えると自ずと活動量も減って、食事量は増えてしまうので思うように体重と体脂肪率がキープできていないことが唯一の不満で、働き始めたらまた痩せられるといいなと思う。あとはひたすら、私は本当にちゃんと仕事ができる人間なのか、考えてもどうにもならないけどそればかりが気持ちの大部分を占めている。
いけしゃあしゃあと平気なふりをしたい
冷たい紅茶を一気に飲み干して
